86話 デートしちゃダメですか?
テスト期間ということもあって最近は顔を出していなかった文芸部だったが、そのテストも無事終わり、部活を再開した。
「へ―瑠璃がねー」
当然、瑠璃の成績を報告するのだったが信じられないと言った様子の弥久先輩。
まあ僕も未だに信じきれていないのでそれも無理はない話だろう。
「君ならできると信じていたよ」
「皆越先輩それ言いたかっただけでしょ」
「ちっ、バレたか。それはそうと、あんだけ勉強できなかったのにどういう仕組でこんな結果になったんだ」
先輩は当然の疑問を口にする。
「それはですね〜、泰が何でもお願いを聞いてくれるといったからですよ」
理っておくが、僕はそんなこと1言も言っていない。
言い出したのはそこのそいつだ。
「なるほど。泰も良いことをするもんだな。それでどんなお願いをしたんだ?」
そこのそいつが更に探りをいれてくる。
正直言って、好きな人に対してこれ以上のことは聞かれたくない。
しかし、瑠璃は止めようと思っても止まりはしないので僕はただ流れに身を任せることしかできなかった。
「えーどうしよっかな〜」
聞かせる気が満々のどうしよっかなに、皆越先輩が「そう言わず教えてくれよ」と急かす。
瑠璃ももともと話したかったみたいでそれ以上もったいぶることはなかった。
「実はですね……泰とデートすることになりました!」
「えっ……私だってまだなのに……」
何だか弥久先輩がつぶやいた気がしたが、そんなセリフ聞こえてても聞こえない。
「デートですよ。デート。今から楽しみで仕方ありません!」
「その、デートって具体的に何をするのかしら」
これはあれだ、ただの野次馬根性というやつだ。他意はない、はず……
「そう言えば、何をするかまだ決めてませんでした。ふむ、なるほど。デート行けるとなっただけで楽しいのに、どこに行くか考えるなんて1粒で2度美味しいですね。まるでグリコです。300m走れそうです」
「思い起こせば私も泰とデートしたことあったな」
「はぁ!?なんでゆかりまで!」
もはや隠すことすら忘れている様子の弥久先輩。
慌てて、「別に、良いんだけどさ、」とか言っても説得力の欠片もない。
そもそも、この爆弾投下は僕にもかなりのダメージがあるわけで……
デートの定義を男女が2人でどこか行くこととするなら、たしかに先輩とのそれはデートに当てはまるかもしれない。
しかし、僕はそれをデートとは呼びたくなかった。
「先輩、参考までにどんなところ行ったんですか?」
「そうだな、たしか……」
「もうそのへんで良いんじゃないですかね。瑠璃もほら、僕たちには僕たちにしかできないデートがあると思うんだ。それを探したほうがきっと特別なものになると思わないか」
「うーん?そうですかね?」
「そうなの!」
皆越先輩はまだ話したりなそうで、
「良いじゃないか少しくらい話したって」
と言っていたが、弥久先輩のしきりに歯ぎしりしてこらえる表情を見てやめたようだ。
「それでは私は家に帰って、デートプランを練らないといけないので帰りますね。お疲れさまです」
微妙な空気を残したまま、その元凶が去っていく。
本当にお疲れだよ……
瑠璃のいなくなった教室では、僕ともうひとりのため息がハモる。
「それで、具体的にはどのくらい成績良かったの?」
ため息の出本が聞いてきた。
「ああ、結局まだ良かったことしか話してませんでしたね」
僕は成績用紙を池田先生から見せてもらっていたので知っているのだが、先輩は見せてもらってないみたいだ。
僕はクリアファイルに挟んでおいたそれを取り出す。
隅のほうが若干くしゃってなってるが何があったかは聞かないでほしい。
僕の精神衛生上の観点から。
「?? なんかこれ間違ってない?」
僕もこれを見せられた時なにかの間違えを疑った。
夢じゃないかと疑ってほっぺをつねったくらいだ。
「はい。先生にも確認したんですが本当みたいですよ」
「あんな、普段ぽあぽあしてる感じのが、ここまで……」
「あれに1点差まで迫られるのはショックでした」
「1点差?あ……」
僕の言葉を聞き何かを思い出したように鞄を漁っている。
「あったあった。げ……」
取り出した紙と、瑠璃の成績表を見比べて顔色が悪くなる弥久先輩。
「どうしたんですか!?」
突然のことでびっくりする。
先輩はと言うと、無言でその見比べていた紙を差し出してきた。
受け取って見てみると、どうやら先輩が1年生の同じ時期の成績みたいだった。
良く偶然持ってたなと感心する。
まあ、そんなことはどうでもいい。
どうして、あんな顔になっていたのか同じように2枚を見比べてみた。
「(あ、なるほど……)」
合計点を見ると明白。
弥久先輩が瑠璃に合計点で負けていたのだ。
僕は先輩の方にそっとてを置く。
「そんなこともありますよ」
「あの、逆に虚しいんだけど……」
余裕の表情で済ましているただ1人を除いて、文芸部員は虚空を見つめ呆けていた。




