81話 探偵ものじゃダメですか?
皆越【あれは、夏休みのこと。】
瑠璃【旅行で行った旅館で、僕たちは忘れもしないとある事件を経験することとなったのだ】
「これ何て金田一?」
「真面目に書いたのにひどいです」
瑠璃が不満を言っている。
真面目に書くのは良いのだが、これ見たことあるやつだ。
よくあるテンプレ展開だ。
「そもそも書き始めたのは皆越先輩ですよ。私は悪くないです」
言われてみればそんな気がしないでもない。
「まあ、いいや」
人のことは置いておいて、自分の文の作成に取り掛かる。
探偵ものと言っても、この時点ではトリックなど考える必要もないので簡単なものだ。
泰【その日は、夏にしては涼しく過ごしやすい日だった】
弥久【僕は、幼馴染のみさきと共に福引で当たった旅行券を使い旅館を訪れていた】
物語はこんな感じでごく平凡に始まった。
言ってしまえばほぼパクリなのだが、まあ出版するわけでもあるまい。
問題はないだろう。
この後も平凡な日常パートが続いた。
そう、のどかすぎるのだ。
探偵ものだというのに、事件1つ起きていない。
その理由は、誰1人としてどんな事件でどんなトリックにするのか何1つとして思いついていないからだ。
僕たちは今更にして、1文小説で探偵ものを書くというその無謀さに気が付いた。
「あーもう!まどろっこしいわね。もう良い。私が殺すわ」
物騒な物言いは、まるで殺人鬼だ。
弥久【その時、突然悲鳴が聞こえてきた】
結末としては、ぱっとしないトリックだったが一応終わらすことはできた。
「ふー、どうにかこうにかなったな」
額の汗を拭うしぐさの皆越先輩。
少し意外だったが、今回の件で多少なりとも疲れたみたいだった。
「それでどうだった?勉強になった?」
「そうですね、よくわかんないです。あまりなんなかったかもです」
「あははは……」
まるで魂でも抜けたかのような弥久先輩。
「でも、楽しかったですよ」
「そうだな、私も楽しかったぞ」
僕も、まあ、楽しかった……かな?
「勉強にはならなかったかもしれないけど、それはまた明日頑張ろっか」
「そうだ。今度は私が教えてあげるから、明日も来るのよ瑠璃」
「気が向いたらですね~」
弥久先輩から絶対連れて来いよとアイコンタクトが来た。
「(できたらねー)」
僕はそう目だけで返すと、夕日が差し込んできた部室を後にした。




