78話 問題を解かなきゃダメですか?
瑠璃が逃げ出した次の日。
放課後になると気が付けば、彼女の姿はなくなっていた。
周りの人に聞くと、どうやら僕の目を盗んで先に帰ったらしい。
なので仕方なく1人で部室へ向かった。
「あの、すみません。取り逃がしっちゃって」
「はぁ……まあ、私はどうでも良いんだけど。それにしても今回のテストは大丈夫だとしても、あれだけ成績が悪かったら近いうちに取り返しがつかなくなるんじゃないの?」
僕の学校では、1年間の中間、期末の平均点が40点未満なら赤点でその場合追試を受けなければ進級できない。
もちろんそれまで赤点を取り続けてきた者が急に追試を合格できるわけもなく、大抵は追試になると留年が確定したようなものだ。
「一応そう説得をしては見てるんですが、本当にわかっているかどうか」
「取り敢えず、明日は必ず部室に連れて来てくれないか。私に案がある」
皆越先輩には昨日のことがあったので、少し不安がある。
だからと言って、他に考えがあるわけでもないのでそれに従うことにした。
次の日の放課後。
スタートダッシュを決めようとしている瑠璃を捕まえることに成功した。
昨日は逃げられてしまったが、あらかじめ逃げることが分かっていて注意を怠らなければ難しいことではない。
「私は帰るんです!離してください!」
相変わらず暴れて抵抗してくる。
と言っても、運動不足の女の子の力なのでそれ程障害になることもなく、部室へ連れていくことができた。
「先輩方連れてきました」
「よくやったぞ、泰君」
部屋の中に引きずり込んでようやく瑠璃は抵抗するのを止めた。
「それで、何をするんですか?」
結局昨日詳しいことは教えてくれなかったので、何をするのかさっぱりだ。
「そうだな、まずは2人とも座ってくれ」
警戒して立ったままだった瑠璃が、静かに椅子に座った。
僕も立っている理由がなくなったので瑠璃より少し入り口に近い位置に腰を下ろした。
皆越先輩はと言えば、何やらカバンからA4のコピー用紙を取り出していた。
「今日は、部員で1文小説を書いて行こうと思う」
勉強しないといけないというときにこの先輩は何を言っているのだろうか。
期末まで残された時間はそれほど多くはないというのに。
「泰君そんな怪訝な表情をしないでくれ。私は何も遊ぼうとしているわけではない。これでも真剣だ」
「いや、そう言われても……」
「君の気持がわからなくもないが、ちゃんと理由があるのだよ。それに瑠璃君が普通の勉強ができるとでも思うか?」
「確かにそうですね。それで、どういう事なんですか?」
「うむ。瑠璃君は文脈を読んだりすることが苦手だと思うんだ。作ることはできるのに、それを読み解くことができないとは何とも面白い話だがな。そこで、1人1人が1文ずつ交代で小説を作っていくんだ。これは、話の流れを掴まないと次の文章を綴ることは難しいし、前の人がどういった考えを持っているかじっくり思考しないといけない。どうだ、ぴったりだろ」
「先輩、意外と考えてるんですね。僕はてっきりただ遊びたいだけかと」
「全く……そんなわけないだろう。これでも、部長として色々考えているんだ」
皆越先輩がこんだけ他人を思いやれたなんてと感心していると、椅子の後ろで必死に隠しながら、嬉しそうにシャーペンをにぎにぎしているのを見て「あー、やっぱり先輩は先輩だな」と思った僕だった。




