74話 エドワード・H・マーカムじゃダメですか?6
Rabbit Horseを出た後の話。
僕たちの間に先ほどまでのような和やかなムードはなかった。
どのように表現したら良いのか分からないのだが、居心地を悪く感じるのは確かだ。
とても気楽に会話をするような雰囲気ではない。
そんな中でもやや遠慮がちに口を開いたのは、コトリだった。
「この後どうしますか?一応プランは考えてあったのですが……」
「ごめん……」
彼女には悪いが今はそういう気分にはなれなかった。
「いえいえ。お気になさらず。私が悪いのですから」
それは違うと思う。
誰かを好きになることに良いも悪もないはずだ。
それを伝えようとも考えたが、コトリが求めている言葉ではないのだろう。
僕は、黙っていることしかできなかった。
こんな時にどうしてあげることもできないなんて男として情けない。
「エド君?」
考えているうちにいつの間にか立ち止まってしまっていたみたいだ。
コトリが心配げに振り返り、顔をのぞき込んできた。
僕を見つめてくる瞳はきれいで、今更ながらに惚れそうになる。
ただし、そうなることは決してないのだが。
「大丈夫、少し考え事をしていただけだから」
コトリは「そうですか」それだけ言うとそれ以上何か聞いてくることはなかった。
しばらく歩いて、僕たちは自然と帰りの駅までたどり着いた。
コトリはと言えば、わかれるのを名残惜し気にしている。
僕は別れを告げ帰ろうとしたその時だった。
「あの、最後にもう少しだけ良いですか?」
僕の返事など求めていなかったのだろう。
それを待たずして話し出した。
「私、やっぱり諦めきれそうにありません。この想いを…… 断られて、はいそうですかで納得できるほど、私物わかりが良くないみたいです」
ここで彼女を無視して帰ることもできただろうが、しかしそれはしなかった。
いや、できなかったのだろう。
僕にとって聞かない方が良いことだということは分かり切っていたのに。
「なので私は、これからも彼方のことをアプローチさせてもらいますからね。覚悟しておいてください」
そう言う彼女の顔は、笑っているというのに、どこか悲しく、切なげで、儚かった。
駅前の喧騒が聞こえてくるこの場所では、あまりに不釣り合いなその表情に何か光るものが見えた。
それは、ただ単純に太陽に強く照らされて、反射しただけだったのかもしれない。
確認しようにも、コトリはそれだけ告げて逃げるように改札へ飛び込んで行ったので確認のしようがなかった。
ただし、それが何であっても僕には関係のないことかもしれないのだが。
「これから、大変になりそうだな……」
僕が吐き出したその言葉は弱く、うざったらしい蝉の鳴き声にかき消されていった。




