70話 エドワード・H・マーカムじゃダメですか?2
クラスメイトに呼び出された当日。
皮肉にも天気は良く、良いお出かけ日和となった。
朝起きてスマホを確認してみれば「今日は楽しみにしてますね」というLINEが来ていてため息を漏らした。
朝食を取り、身支度を整えてから家を出た。
いくら行きたくないとは言っても、さすがに遅れていくわけにはいかない。
当然のように30分前には待ち合わせ場所にたどり着くような時間に出たのだ。
しかし到着してみれば、彼女は既にその場に来ていた。
辺りをきょろきょろと見渡しており、僕を見つけると満天の笑顔でこちらにかけてきた。
「おはよ!エド君」
「おはよ」
挨拶をされたので返しておく。
「それでどうする?用って何?何ならそこらへの喫茶店でも入って聞くけど」
「いえ、まずは行きたい場所があるのでそこへ向かいましょう。安心してください、今日は私が計画を立ているので」
そう言うと彼女は僕の言葉などろくに聞きもせずに歩き出してしまう。
僕は仕方なく付いて行くことにした。
「(早く用事だけ済ませて、帰りたかったのだがそういうわけにもいかないか)」
彼女に付いて行った先にあったのはボーリング場だった。
「君、ここって?」
「エド君、私のことはコトリって呼んでください。みんなそう呼んでるので。あとここはボーリング場ですよ」
「ボーリング場ってことは分かってるんだけど何で?」
「ボーリングをするからに決まってるじゃないですか。それとも嫌でしたか……?」
「嫌とは言ってないけど」
「それならよかったです。では行きましょうか」
素直に嫌と言えないのが八方美人である僕の悪いところだ。
仕方なくコトリに連れられてボーリング場に入る。
彼女が受付を済ませたみたいで、次はボールを選ぼうと引っ張られていった。
「結構種類があるんだね」
「そうですね。人それぞれあった重さがありますからね」
ボーリングは小学校以来なのであまり記憶にない。
試しに1球持ってみるがそれが自分に合っているのかどうかわからなかった。
「ボールって選び方とかあるの?」
試しにコトリに聞いてみる。
「選び方ですか?うーん、男性だと12~14ポンドくらいが良いらしいですけど。久しぶりみたいですし、関節を痛めたりしてもいけませんしね。この12ポンドのボールとかどうですか」
コトリはボールを手に取って渡してくれた。
受け取って落とすことはなかったが、その見た目に反してずっしりくる重さに驚いた。
彼女はと言えば、14ポンドのボールを軽々と取っていた。
「意外と力があるんだね」
「私こう見えても意外と力持ちなんですよ」
その華奢な体からは想像できない。
確か14ポンドだったら6キロ半くらいだった気がする。
米と比べれば大したこと無いように思えるが、それでも重いことには変わりない。
ボールを選んだあとは、靴を履き替えてレーンに向かった。
「ではまず私がお手本を見せるので見ていてくださいね」
コトリはさっき持ってきたボールを置いてあった雑巾で拭いてから指を入れ持ち上げる。
「ボールはこうやって構えて、足はこんな感じに開きます」
その立ち姿は、素人の僕でもわかるくらいさまになっていた。
「で、あとは1度後ろにボールを引いて投げます」
彼女が放ったボールは吸い込まれるように中心のピンまで滑っていく。
そして見事にすべてのピンを倒して見せた。
「どうですか、わかりましたか?」
「まあ、何とか」
僕もさっきのをまねて、ボールを構えてみる
コトリが何も言わずに見守っていることから察するに、今のところ間違っていないのだろう。
そして振りかぶって投げる。
指から抜けたボールはさっきのお手本とは真逆に左側の溝に落ちていった。
つまり、ガターだ。
「ありゃりゃ、残念ですね」
「意外と難しいな」
「エド君は投げるとき体が外に逃げているので、最後まで軸をブラさないことを意識してもう1度投げてみたらどうですか」
「なるほど」
自分では気づかなかったのだが、外から見ていた彼女ならではのアドバイスだろう。
2投目は、そのことに注意して投げてみた。
するとどうだろう。ストライクにはならなかったものの、ボールは比較的中央付近に転がっていき8ピン倒すことができた。
「さすがエド君上達するのが早いですね。私も負けていられません」
座っていたコトリは立ち上がり、投げる準備をしている。
さっきと比べてより気合が入っているように見える。
最初に見せてくれたのと寸分狂わぬ動作でボールを放る。
ただ前と違ったのは、ボールが一直線に向かうのではなくきれいなカーブを描いていたことだ。
どうやったらこんなに曲がっていくのか理解できないが、僕が彼女に火をつけたのは間違えない。
「そういえば、私。小さいころにボーリングの大会で何度も優勝しているんですよ。なので負けませんからね」
「そんな事言っても昔の話みたいじゃないですか。僕が勝たせてもらうからね」
こうして、僕たちの火花散るボーリング勝負が始まった。




