65話 池田麻衣子じゃダメですか?
私、池田麻衣子は国語科教師であるとともに、文芸部顧問でもある。
もちろん、文芸部顧問であることから分かるように、人より多少本が好きだ。
それはさておき、今回は文芸部員の普段の様子でも見せようかなと思う。
私は、4人全員の担当を受け持っている。
この学校の全クラスの国語の授業をやっているのでそれもそのはずなのだが。
何あともあれ、初めは皆越ゆかりが居る3年生から授業があるので、そこから見ていこう。
彼女は何を隠そうこの学校1番の成績を誇っている。
それでいてあの容姿だ。
神は二物を与えずとは言うが、彼女を知っているものならばそれが、真っ赤なウソであることが丸わかりだ。
彼女は1年生のときから教えてきたが、彼女が100点以外を取ったのを見たことがない。
それでいて普段勉強をしている様子はないのだ。
そう、今現在も。
私は、1番後ろの窓側の席に行く。
皆越ゆかりはくじ引きなのにいつもその席を引き当てているので不思議だ。
そこまで行って、小声で話しかけた。
「皆越さん、流石に受業中は本を読むのはやめてくださるかしら……」
「池田先生、何を言っているんだ?これは私なりの勉強方だ。証拠にいつも良い成績を上げているだろう」
「確かに、そうかも知れませんが。真面目に受けてください。大事な授業ですよ」
私は必死に彼女を諭す。
「私にはその授業はあっていないみたいだからな。それに、その大事な授業とやらを受けている人よりなんで私のほうがテストの点数が高いのか不思議だな」
彼女はいつもこんな感じだ。
聞く限りによると、他の教科の授業でも似たようなものらしい。
私以外の教師はもう諦めているそうだ。
「先生、国語担当ということは、学問のすゝめは知っているだろう?」
皆越はそんなことを言ってくる。
天は人上に人を作らず。人の下に人を作らずという言葉があるが、それには続きがある。
原文は割愛するが、要は現実はそれとは違って差がある。
それは学んだか学ばなかったかの差だ。というようなことが書かれているのだ。
この場合彼女はもとの意味なんてどうでもよく、ただできるやつとできないやつがいて、自分はできる側だが何か文句でもあるのか?と言いたいのだろう。
ちなみにだが、学問のすゝめについて内容をとてつもなく簡単に表すなら、チャレンジについてくる漫画みたいな感じだ。
「もちろん知っていますよ。何なら暗唱しましょうか?それにしてもおかしいですね。私の記憶が正しければ、色々な勉強があると書いてあった気がするのですが。それを知っているはずの、貴方がなぜ授業を受けないのですか?」
私が言っていのは、ただ机に向かうだけが学問ではないという文だ。
この場合だと、適切な使い方だったとは言えないが彼女がそういうやり方で来るのなら、私も同じ土俵に立つ必要がある。
だから、こんな本へ皮肉めいた使い方をしたのだ。
「ふふ、ふははは そうだな、分かった今日のところは真面目に受けるとする」
どうやら私の返しがお気に召したらしい。
証拠に、さっきまで開いていた本を閉じ机にしまってくれた。
その場に留まる意味もなくなったので、私は教卓に戻り授業を再開した。
その日の職員室でのこと。
「聞きましたよ。池田先生。あの皆越くんに真面目に授業を受けさせたんですって」
どこから聞いたのか、田中先生が話しかけてきた。
「ええ、まあ」
「いやー、さすが先生です」
「やめてくださいよ。貴方も先生ではありませんか」
たった1回受けさせれただけなのになんだか後ろめたい。
「そんな顔しないでください。私達が何度やってもできなかったことをやってのけたのですから、もっと誇っても良いと思いますよ」
「はぁ……」
私が呆けていると、「まあこれでも飲んで次もがんばてください」とカフェラテを渡してくれた。
プルタブを開けて中身を一気に喉へ流し込む。
連日連夜の読書で疲れていた脳に砂糖の甘さが染み渡る感覚が気持ちよかった。




