62話 桜田弥久じゃダメですか?3
これは泰がまだ入学してくる前の話。
ちょうど1年くらい前の、私が1年生だったころの夏。
私は今よりもずっと退屈な日々を送っていた。
文芸部には、入っていたわけだから充実してなかったわけではない。
むしろ、ゆかりと2人だけで過ごす日々は今とは違った楽しさがあった。
それでも、何か物足りなさを感じていたのも事実だ。
行きつけのカフェであるコーヒーハウスでのこと。
「最近何だか浮かない顔をしていますね。何か悩み事でも?」
「えっと、悩みというほどでは」
「そうですか、ならいいんだよ」
なんも聞かずにいつものコーヒーを出してくれるマスター。
「ところで、今人が足りてないのでバイトでもしてみない?」
「突然ですね」
私が出されたコーヒーをフーフー冷ましながら飲んでいると、いきなりそんな話を切り出した来た。
「弥久ちゃんそろそろ夏休みだよね」
「ええ、そうですけど」
「ならどうかな、君の悩みも何か解決する糸口が見つかるもしれないよ」
少し考えてみる。
別に夏休みやることがあるわけでもないのだ。
それなら、悪い話でもないだろう。
「分かりました。よろしくお願いします」
「ありがとう。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
かくして、私のバイトが決まった。
夏休み初日。そして私のバイト初日でもある。
時間帯は朝。
まだ涼しい時間帯と言えど、季節は夏だ。
朝日が露出している腕を焼いてくる。
向かったのは、バイト先のコーヒーハウス。
ログハウス風のお洒落なカフェだ。
扉を開ければ、カウベルの音が軽快になり私を出迎えてくれた。
それに遅れて、エアコンに冷やされた空気が私を包んでくる。
「いらっしゃい」
私を見つけるとマスターが声をかけてくる。
「あ、おはようございます」
「じゃあ、さっそく更衣室で着替えて来てね。名前書いてあるロッカー使っていいから」
それに返事をすると、言われるがままに更衣室に向かう。
向かうと、マスターの言った通り私の名前が書かれているロッカーがある。
開けてみれば、中には白のシャツに黒のベストそして同じく黒のスカートが入っている。
また、緑のエプロンも入っていた。
喫茶店の制服と聞いてイメージしたらこんな感じになるんじゃないかといった通りのものだ。
私は着替えてから、カウンターの方へ向かった。




