59話 蒼井瑠璃じゃダメですか?
私が教室に戻っても、泰はそこにはいませんでした。
まあ、今回は彼に用があるわけではないので関係ないのですが。
教室に入って私が向かった先は1つ。
そう、加納さんのところです。
「もしも~し」
なんと声をかければ良いのかわからないのでとりあえず、適当な決り文句でも言っておきます。
しかし反応がありません。
「もしも~し!」
さっきよりも大きな声でもう1度言ってみました。
「わ、私……?」
その声は少しだけ怯えているように聞こえます。
でも少しだけ、強がっているようにも。
「そうですよ。あなた以外に誰がいるんですか」
「いない、の……かな……?」
こう実際に弱りきっている彼女を見るのは、いくら自業自得だとしても、かわいそうに思えてきます。
泰の気持ちがわからなくはないです。
と言っても、それだけで実行に移すまでの理由はありませんが。
『…………』
もともと仲が良かったわけではない、むしろ最悪だったので、会話など続くわけもありません。
「少し場所を移しませんか?」
なんだかこんなに人がいる中では居心地が悪いと思ったので、提案です。
「ひぃっ」
しかしそうとは取らなかったのか短い悲鳴を上げる加納さん。
「別に何もしませんよ。ほら」
私は両手をひらひらと無害アピールをします。
加納さんはコクリと小さくうなずいて立ち上がった私に付いてきてくれました。
学校にある中庭の隅の東屋。私のお気に入りの場所です。
昼下がりの優しい風が吹き抜け、ついウトウトしてしまいます。
私達はそこへ腰をおろします。
「あの……その節はごめん……」
ちゃんと謝れる子だったことには驚きです。
「大丈夫ですよ。それに今は気にしていませんし」
気にしていないというのは本心です。
別にあのことを今更とやかく言うほど小さくありません。
「そういえば、泰のことどう思っていますか?」
これは純粋な興味です。
「嫌な奴……」
「あはは、そうですよね」
それもそうです。彼女は泰のせいで今このような状況にあるのですから。
「でもそれってあなたが悪いんですよね」
これは少し正確が悪かったかもしれません。
加納さんは萎縮してしまいました。
「私は、あなたがどんな目に遭おうと別に痛くも痒くもないのですが、泰は違ったみたいですよ」
唐突な発言に目を白黒させる加納さん。
「やっぱり知らなかったんですね」
「なんのこと?」
これだと、泰がただのツンデレみたいなので種明かしをしましょう。
それから私は、語りました。
朝の教室のこと、今日見た下駄箱でのこと。他にもそれと思わしき行動を取っていた事を。
「……なんで私なんかのことを」
彼女の瞳は若干潤んでいました。
「全くですよね。私としてはもっと苦しめばいいと思ったのに」
加納さんは何も言わずに唇を噛み締めています。
「まっ、でも、泰がそうするんだったら私もそれを真似するだけですが」
「あなたは本当に泰くんが好きなのね……」
「はい!どうですか惚れちゃいましたか?」
絶対に渡しませんけど、と付け加えることも忘れずに。
「それと、泰になにかしたら容赦しませんよ?」
「分かった、約束する」
今の加納さんの目は空の青色を反射してきれいに輝いています。
とても澄んだ目です。
これなら信用に値するでしょう。
「そうだ、せっかくなのでLINE交換しませんか?」
「別に良いけど……なんで?」
スマホを取り出しながら尋ねてきました。
「友達が連絡先を交換するのに理由なんていりますか?」
「そうね、はいこれ」
納得したようで、QRコードを見せてくれる。
私はそれを写し登録した。
家に帰った時あまり聞き慣れては、いない受信音がなる。
『泰くんのこと私が狙っちゃっても別に良いよね?これは、何かすることに入らないでしょ?』
加納さん、いや、美幸との初のLINEはその文言でした。
私はと言うと、
『できるものならご自由にどうぞ。できるものならですけどね』
軽く挑発しておいたのでした。




