53話 象を見ちゃダメですか?
「動物園といえば、象さんです〜」
と言いながら、瑠璃は象の居る檻へと一直線に向かっていった。
腕を引っ張られている弥久先輩は当然として、僕と皆越先輩もあとをついていった。
「本物はやっぱり大きいわね」
弥久先輩は象を熱心に観察していた。
瑠璃も必死に象を見ている。
「ですね。人間のとは比べ物になりません。ぞうさんって言われるくらいですからね」
普通、動物を人間と比べ物にならない、などと言うだろうか。
いや、確かに言うかもしれない。
でもそれは状況次第だろう。
普通象を見るとすればまず、どこを見るか。それは長い鼻だったり、高い頭だったり。
しかし瑠璃はといえば、明らかに目線は下の方へ向いている。それも、後ろ足の方に。
弥久先輩は気づいてないようだが、そこを見て大きいとか言うモノは1つしかないだろう。
「そうか?私はもっと大きいと思っていたんだが」
瑠璃の下ネタに参加する、皆越先輩。弥久先輩を揶揄ってやろうという魂胆なのかもしれない。
そうとも知らずに弥久先輩は、
「いや大きいでしょ?何見てるの」
「ナニ見てるって嫌ですね、分かってるじゃないですか。ぞうさんですよ」
「もしかして、弥久ホンモノのぞうさん見たことなかったのか?」
「あるに決まってるでしょ。幼稚園の頃おんなじ組の男子と見たもん」
瑠璃と皆越先輩に脳内を汚されているせいでもう、そういうセリフにしか聞こえない。
というか流石に不憫に思えてきたので耳打ちで教えてあげた。
「弥久先輩ちょっと耳貸してください」
嫌そうにしながらも、「何?」と言って僕の口元に顔を寄せる弥久先輩。
「この2人がいっているのはですね・・・・・・ってことなんですよ」
「ーっ!?」
途端に顔を赤らめる弥久先輩。
「なんで泰、言っちゃうんですか。これから面白くなりそうだったのにぃ」
ふてくされる瑠璃。皆越先輩はといえば、こちらは割と満足そうにしていた。
「ばっ、バッカじゃないの!最低!泰を置いて2人とも次いこ」
僕は弥久先輩にビンタをされると1人その場に取り残された。
「僕、何もしてないよな……」
世の中には傍観者であったほうが良いこともあると、1つ勉強になった。
取り残された僕が3人を必死に探すと、今度はサーバルキャットを見ていた。
瑠璃は懲りずに、
「大きいですね〜」
とまた言っている。
弥久先輩は、学習したようで、
「耳が、大きいわね」
と言っていた。主語は大切である。僕も今後主語を大切にしようと思う。
「うわ見てください泰!」
瑠璃の指す方を見れば檻の上の部分から、餌であろう肉がぶら下げられていた。
かなり高い位置にあり、瑠璃は疎か、僕ですら手を伸ばしたらギリギリ届くらいところだ。
そんなところにある餌をサーバルキャットはいとも容易げに一飛びで捉えた。
「すごいですよ、あの、ジャンプ力ぅ〜。1m、2m余裕でジャンプしてますよ」
どこかで聞いたことあるセリフを興奮げに言っていた。
しばらくサーバルキャットの餌やりを見て次にいこうかとしていた時、突然大きな雷がなる。
空を見上げてみれば、黒に近いねずみ色の怪しい雲が迫ってきていた。
僕たちは、急いで動物園唯一の屋根付きの施設に駆け込む。
すると同時、滝のような雨が降り出した。
「ギリギリだったな」
皆越先輩の言う通り、もう十数秒遅れていたら濡れていたかもしれない。
しかしそれよりもだ、
「今降ってもチケット割引にならないじゃん!」
僕の心の叫びが漏れた。
世の中同しようもないこともあるが、やるせない気持ちになることもあるのだ。
そのことはもう諦めた。




