44話 助けちゃダメですか?
1年2組。僕、雪本泰のクラスだ。
僕は今日も今日とて、1人でお昼に弁当を食べていた。
別にぼっちというわけではない。
クラスではよく話す友達もいるし、体育のペアだってはぐれたりしない。
再び言うがぼっちではないのだ。
ただ昼食は静かに食べたい主義なのだ。
しかし、今日はそう上手くいきそうもない。
皆がただがやがや話すだけの声ならさほど気になることはない。
しかし、今回は違う。
「蒼井さんて小説書いてるんでしょ、マジウケるんだけど」
小ばかにしたような声と共に下品な笑い声をあげているのが、加納美幸だ。
学校だというのに化粧をしておりさらには、アクセサリーまでつけている。
顔は割と整っていると思うのだが、残念ながら他がそれを台無しにしているといった感じだ。
10人に聞けば10人ともギャルと答えるような見た目と言えばわかりやすいかもしれない。
彼女は、うちのクラスでもっとも大きい女子グループに属しており、そこではボスのような役割を担っている。
言わば、スクールカーストのトップに居るような存在だ。
そんな女王である美幸に絶賛絡まれ中なのが蒼井瑠璃。
彼女はその名の通り綺麗な瑠璃色の目をしている。
ただし、ハーフというわけでもなく、髪も黒く、肌も白くはあるがそれはただの引きこもり故といった感じの白さだ。
顔立ちも日本人的である。
そんな彼女がなぜ絡まれているかと言うと理由は単純だ。
小説を書いていたから。
瑠璃は、授業中も含み寝てる以外は原稿用紙に何やら小説を書いている。
それを退屈しのぎなのか美幸が揶揄っているのだ。
違う。あれは揶揄うというより貶していると言った方がより近いだろう。
何はともあれ、瑠璃にとっては好ましくない状況であることには変わりなかった。
訂正しよう、僕にとっても好ましく思えない状況だ。
彼女は、普段から性格が暗いが、今はいつにも増してそれに拍車がかっている。
「なに、あんたこんな子供みたいな妄想ごっこしてるの?もうさ、こんな知能が低い子がおんなじ学校通ってると思うと気分が悪いからさ、明日から来ないでくれる(笑)」
相手が喋らないのを良いことに、さらに罵倒する美幸。
瑠璃はと言えば、唇を噛み目に一杯たまった涙は今にも溢れんばかりだ。
「気分が悪いのはこっちの方だよ」
思わずぽろりと口に出てしまった。
「あ”っ、なに?文句あんならもっと大きい声で言えば」
呟く程度だったはずなのになんて地獄耳なんだ。
でも僕はその言葉がスイッチとなり、怒りがあふれる。
「ああ言ってやるよ!お前の方が不快だって言ってんだよ!」
心の中の冷静な僕がやめろと言っている。
ただし、やめられない。やめたらいけない。
たとえ授業中に不真面目に小説を書こうとも注意はされこそ、それをバカにして良い理由にはならない。
今ならわかる。
原稿1枚書くのにどれだけ大変な思いをするのかを知っているから。
たった400字しかないのだがそれは普通の作文を学校で書かされているのとは違うのだ。
しかもそれを物語として成立させるためには何十枚、何百枚と書いて行かないといけない。
その苦労を知りもしないで、ただ自分の自己顕示欲を満たすための消耗品として使う。
僕はそれを許すことができなかった。
「作品を否定しバカにするのならまだわかる。それは、認めさせられなかった僕たちのせいでもあるからな。でもお前がやっているのは違うだろ。小説を書いているということを、まるで恥ずかしい人間であるかのように揶揄する。そんな人間性を否定するようなことやって良いと思ってんのか?」
いつの間にか叫んでいたようだ。
息が苦しく肩が上下する。
ふと、瑠璃を見れば僕の剣幕に怯えてなのか体を震わしていた。
それを見て正気に戻る。
教室は静まり返り、運動場からのんきな声「ぱーす、ぱーす」という声だけが届いてくる。
注目は僕たちに集まり、逆に僕を見てない人を探すのが難しいほどだろう。
そんな状況を苦い顔で見渡し思った。
「(あー、やっちゃた……かな?)」
胃が重たく感じたのは、食後だからというわけではなさそうだ。




