42話 企んじゃダメですか?
桜田 弥久
この学校には、フォークダンスで最後にペアになった人が結ばれるというジンクスがある。
それを言い出したのは私だ。
しかしそんなこと、この学校で聞いたことがない。
大体、この学校の文化祭で最後にフォークダンスを踊るようになったのは今年からなのだから、それもそのはずだろう。
では何故このようなことを言い出したのか。
それは単純だ。
雪本泰に私を意識させるための作戦を思いついたからだ。
私は、泰のことが好きだ。のだと思う……
理由はわからない。
でも、この事実はもう認めざる負えないだろう。
このことは、ゆかりにはあらかじめ伝えている。
そうでないと、そんなジンクスが真っ赤な嘘であることが早々にばれてしまうからだ。
まあ、彼女に知られたところで問題はないだろうと思うので良しとしよう。
泰は今年初めての文化祭だし、そんなこと知る由もないだろう。
しかし問題も起きた。
なんとエドも文化祭に来ていたのだ。
彼は、私の嘘を見破る危険因子になりえない。
しかし、それは杞憂に終わった。
特に、言及されることはなかったからだ。
察しの良いエドのことだ、実際は気づいていたのかもしれない。
だとしても、それを承知の上で黙っていてくれているのだろう。
良くできた人間だ。
ゆかりの婚約者なのも頷ける。
何はともあれ、泰に信じ込ませることには成功したようだ。
時間が近づいて、運動場に移動した。
曲の長さはあらかじめ調査しているので、何人分離れていれば良いかは正確にわかっている。
あとは、頃合いを見計らって抜け出し適切な位置につくだけだ。
「あ、すみません。少しトイレ行ってきます」
私は耳を疑った。
これだと、私の計画がご破算になってしまうじゃない。
「もうすぐ始まるぞ」
ゆかりはすかさずフォローに回ってくれた。
私も声をかけたのだが、それを振り切って人ごみのほうへ消えて行ってしまった。
しかし、あっちにはお手洗いはなかったはずなのだが……
「あ、あれ泰君ではないですか?」
エドが指をさしたほうを見れば、確かにそこに泰がいた。
「僕が見失わないように近くで見ておきますので、弥久さんは今のうちに順番を数えておいてください」
そういうとエドは、泰が居る方へ駆けていった。
やはり彼はすでに気づいていたようだ。
それはそうと、いま私のやるべきことは1つしかない。
私は、順番を見極めることに徹した。
やがて、音楽が鳴り出す。
このまま進めば、泰と私がペアの時にちょうど終わることになる。
でもなぜだろう、
「(逃げ出したい)」
自分でそうなるように実行したことなのだが、不思議と今は後悔があった。
なんでこんなことをしてしまったのだろうか?
今は、その時が来るのがたまらなく怖い。
そんな私でも、時がたてばやがて泰の番が回ってくる。
「泰?」
私の声は震えていたかもしれない。
それどころか、ちゃんと発声できていた自信すらない。
泰が私の手を握る。
「(これは、ヤバいかも)」
私の心臓が激しく脈を打っている。
その苦しさは決してダンスを踊っているからなどでは無いだろう。
予定通り曲が鳴りやむ。
泰がこちらの顔を覗き込んでいるが、まともに見ることができない。
少しの時間が過ぎた後、勇気を出してゆっくりと顔を向けてみた。
でも、目が合うことはなかった。
なぜなら泰は、エドとペアになっているゆかりを見ていたから。
その時察した。
泰は初めから私なんか目に入ってなかったということに。
それどころか、彼が好きなのは……
「(私じゃ勝てないな……)」
そんな落ち込んだ思いと共に怒りも湧いてきた。
「バカーーー!」
私はそう叫ぶと、訳も分からないままその場を立ち去った。
深緑の葉が茂りだす夏の初め、私はあまりにも早すぎる失恋をしたのだった。




