41話 踊っちゃダメですか?
文化祭の前半の方で仕事がなくなった僕たちは、どこにも行く当てがなく部室に入り浸っていた。
載せていた部誌もなくなったため、必要のなくなった長机も今は部室の元の場所に戻っている。
「あー、聞いた話なんだけどさ」
頭を机に突っ伏したままけだるげに話し出す弥久先輩。
「うちの学校って、最後にフォークダンスがあるでしょ。あれさ、最後に……」
「最後にペアになった人と両想いになれるというジンクスがあるとかですか?」
「うぅ」
図星なのか、呻く先輩。
さすがに冗談で言ったが、そんな話が実際にあったことに驚く。
ありきたりすぎて、逆に存在が疑われるようなことがあったなんて。
「ハハッ、そんな事気にしないぞ」
皆越先輩は、こういうのは好きそうだと思ったが、好きなのと信じるのは違うのだろう。
怪談話が好きでも、幽霊を信じている人が少ないように。
まあ、先輩は結構サバサバした性格ではあるので、納得はいくが。
「私も気にしないし」
弥久先輩はそういうが、そもそも先輩が言い出しっぺなのは覚えているのだろうか?
「僕も気にしないですよ」
僕も先輩たちに続いて、同じ意見を言う。
だが、気にしないわけがない。
もちろん僕は、皆越先輩と踊れるように企んでいる。
「みなさん気にしないんですね。あ、僕たちは一緒に踊れると良いですね。ゆかり」
その中で唯一、ジンクスを楽しんでいるのがエドだった。
これだと僕が、強がっているみたいになってしまう。
いや、実際強がっているのだが。
それでも、こう余裕あるエドを見ると何処か不安を感じられずにはいられない。
エドのこういうところに人間としての格の違いを感じ、自分が嫌になってしまう。
とは言ってもエドが嫌いと言うわけではないので、不思議なものだ。
こうしている間にも時間は進み、もうすぐで閉会の時間まで来た。
最後を締めくくる、フォークダンスは運動場で行われる。
そのため僕たちは移動を開始した。
運動場まで来ると、すでに人がまばらに集まりだしていた。
ちょうど中心辺りには、キャンプファイヤーのようなものが置いてある。
「そういえば、ついて来てしまいましたが私も居て良かったのですかね?」
エドが言ったことも確かにそうだと思う。
他校の生徒だがこういう場合はどうなるのだろうか?
「構わないだろう。周りもところどころ、そういうのも居るしな」
皆越先輩につられて辺りを見回してみる。
周りには、私服や、この学校のではない制服を着た人が点々と見受けられる。
まあ、これも文化祭のイベントの一部なのだし良いのだろう。
もしダメだったとしても、さすがにこの人数を追い出すのは大変だろうから黙認されるだろう。
スマホの時計を見ると開始5分前だった。
「あ、すみません。少しトイレ行ってきます」
切り出したのは僕だ。
「もうすぐ始まるぞ」
「何で前もって行っとかないの」
「ちょっと、急にお腹の調子が」
もちろんそんなの嘘に決まっている。
作戦のためにこの場を離れる口実だ。
曲の長さについてはある程度予想がついている。
ならばあとは、適切な位置からスタートが切れるかどうかがカギだ。
フォークダンスは次々と相手を変えながら踊る。
最後に皆越先輩と踊るためには、離れた位置から踊り始めないといけないのだ。
そのために適当な理由を付けて、離れてきた。
やがて、愉快なオクラホマミキサーの音楽と共にダンスが始まる。
それにしても全く知らない人と手をつなぐというのは気まずい。
割と臆病な性格なので、女子が怖い。
僕とペアになった女子が、不快そうな表情をしているのは気のせいではないだろう。
「あれ、泰じゃん」
ペアになった女子に申し訳なさを感じながら踊っていると、交代が行われたとき僕の名前が呼ばれた。
その声の正体は真由美だった。
「あーもしかして、弥久ねらいでしょ」
獲物でも見つけたように口角を吊り上げニヤついている。
やはり真由美とやらは何か勘違いをしているようだ。
あんなに僕をぞんざいに扱っている弥久先輩をどうやったら好意を持つというのだろうか。
「僕は……」
「じゃっ、がんばってね~」
僕は弁明しようと試みたが、次の番になってしまった。
真奈美は手をひらひらとさせると次へ行ってしまった。
その後は、いやな顔をされながら、時々悪態を吐かれながら何人かとペアになる。
そうして、もう数人で皆越先輩だ。
自分から仕組んでおいてなんだが、今更緊張してくる。
もうそろそろ曲が終わってもおかしくはないと思う。
「(続いてくれ)」
僕の願いは届いたようで、皆越先輩の番まで回ってきた。
「あ、泰君!」
僕と気づくなり、とても嬉しそうな笑顔を向けてくる。
先輩の手を取ると、白い肌とは裏腹に暖かかった。
僕の手を先輩の柔らかな手が包み込み、思わずドギマギしてしまう。
この瞬間が続けばどんなに良いだろうと刹那に思った。
しかし、それもつかの間、次のペアへと順番は送られてしまう。
曲は都合よくは終わってくれなかった。
それから、何人かと踊ったと思うがあまり記憶にはない。
「泰?」
気が付けば、ダンスの相手は弥久先輩になっていた。
もはや流れ作業と化した動きで、 彼女の手を取る。
そして、気づく。
弥久先輩の手が微かにこわばっていることに。
さっきつないだ皆越先輩の正反対だ。
それに緊張しているのか手が冷えている。
温めて上げるため先輩の手を覆うように手を握った。
先輩の肩が一瞬跳ねる。
「(これは……いや、さすがにないよな……)」
僕は一瞬ある考えが頭を巡ったが、それを却下した。
そして曲も終わる。
結局、最後は皆越先輩ではなく弥久先輩だった。
踊るのをやめて、弥久先輩と向かい合おうとするが、こちらを向いてくれない。
「弥久先輩?」
僕が名前を呼んだ瞬間、
「バカーーー!」
そう叫んだかと思うと、僕から逃げるようにどこかへ行ってしまった。
最近は弥久先輩と一緒に帰ることが多かったのだが、結局放課後先輩は見つけられず、僕は久しぶりに1人で下校した。




