38話 文化祭しちゃダメですか?
なんだかんだで始まった文化祭。
僕たち文芸部一同がやったことといえば前日に長机を移動したことくらいだろう。
本当にこれ意外文化祭らしいことはやっていない。
長机を移動させることを文化祭らしいというかは置いといて、他にしていたことは貯まった積み本、もとい積みラノベを消化していたくらいだ。
なんだが僕は青春を無駄遣いしている気がしてきた。
「泰君、部誌を移動したいからそっちを持ってくれないか?」
部誌というのは、僕の書いた小説のことだ。
「そういえば、まだどういう内容なのか教えてもらってなかったな。読んでも良いか?」
知り合いに自分の創作物を見られるのは少し恥ずかしさもあるが、別に断る理由もない。
運び終わると長机のところに2脚並んだパイプ椅子に座り、積まれた中から1冊取って開いて見る皆越先輩。
「泰君は意外と優しい小説を書くんだな」
全文と言っても、10分もかからないくらいの短編だ。
一通り読み終わった先輩は、呟いた。
誰かから、それも目の前で感想をもらうというのは少しむず痒い。
僕はなんだが照れてることしか出来なかった。
「いっぱい売れると良いな……」
確かにそれだと嬉しいが、そうじゃなくとも僕はこの小説に満足している。
それに、先輩が読んでくれただけで僕には十分だった。
開会の時間になる。
最初は、僕と皆越先輩の担当だった。
この後は弥久先輩が来て、皆越先輩と交代する予定だ。
「それにしても、誰も来ないな」
「そうですね」
ここ、文芸部の部室は部室棟の最も隅にある。
立地条件で言えば最悪の場所だ。
皆越先輩はあまりにも客が来ないので読書を始めてしまっている。
僕もそれに習って、本を開いた。
結局弥久先輩が来るまでの間、客は誰1人として来ることはなかった。
「弥久先輩その格好は……」
交代にやってきた先輩を見て僕は思わず絶句した。
「喫茶店の制服……」
蚊の鳴くような声で答える先輩。
そんな先輩の着ていた制服というのは、ミニスカメイド服だった。
「喫茶店って、メイドカフェのことだったんですね」
小さくうなずく先輩。
顔を赤くして恥じらう先輩は、そういう性癖を持っていない僕でもなんだが感じるものがある。
「だから接客しないって言ってたんですね」
「うん。でも今日来てみたら……無理やり着せられて、仕方なく……」
「なるほど。それは、ご愁傷様です。でもよく合うサイズありましたね」
フリーサイズと言ってしまえばそれまでだが、それにしては大きさが先輩にピッタリすぎる。
「なんだが最近スタイルいいねとかやたら話振られると思ったら、こういうことだったみたい」
知らず知らずのうちに、サイズを誘導尋問されていたのだろう。
なんだかかわいそうだが、弥久先輩のクラスの人グッジョブ!
メイドを傍に携えて大物作家になった気分だけでも味わった。
「そう言えば泰の小説ってこれだよね」
読んでも良いか確認を取ってくる先輩。
僕がそれに答えるのを待ってから先輩は読み始めた。
「これって、私……?」
変えたと言っても大元は先輩の過去の体験談からだ。
気付いたとしても不思議はない。
「えっと、そうですけど。勝手に使ってすみません」
「謝ることじゃないから。むしろありがとね。なんだが元気が出た気がする」
先輩は嘘を言っているようには見えない。
きっと本当にそう思ってくれいているのだろう。
弥久先輩は、本を胸に大切そうに抱えていた。




