36話 文化祭準備をしなきゃダメですか?
ついに文化祭の準備期間がやってきた。
この1週間は授業がなく、丸々文化祭の準備に時間が充てられている。
僕のクラスでは、かき氷の模擬店をするらしかった。
らしかった、と言うのも実際にその場にいないからそういう情報が耳に入っただけだ。
では僕が今何をしているかと言うと。
「泰君はクラスの方に行かなくて良いのか」
「そう言う皆越先輩はどうなんですか」
そう、僕たちは部室で2人、本を読んでいた。
文化祭といえば、文化部の晴れ舞台。
それもこれといった出番がない文芸部のような部活には唯一の場と言っても過言ではないだろう。
だからと言って、文芸部にはこれといった準備もないのだが。
小説もすでに僕たちができる準備は終わっているし、会場と言ってもこの部屋では狭いので部室の長机を販売用に外に出してそこに、本を並べるくらいだろう。
「私は一応部長という立場だからな。いないというわけにも行かないだろう。安心してくれ、弥久と交代でクラスの方にもいく予定だからな」
先輩のことだ、僕みたいにクラスで孤立しているということはなく人気があるのだろう。
「先輩のクラスは、どんな出し物するんですか?」
他に話すこともなかったので、そんな少し気になったことを尋ねてみた。
「私のクラスはお化け屋敷だぞ」
「先輩もお化けとかやるんですか?」
「いやいや、私はただの裏方だよ。こっちの方もやらないといけないからな。簡単な雑用をやっている」
それは少し残念だと思った。
「先輩のお化け姿見てみたかったなー」
「そうか?なんなら借りてきても良いが。そうだ、お化けの姿で売るというのも面白いかもしれないな」
先輩は「少し席を外す」と言って、どこかへ行ってしまった。
しばらくして帰ってきた皆越先輩は、雪のように白い浴衣を着ていた。
自前の艶やかな黒髪には、雪の結晶を模した髪飾りをつけている。
そんな先輩の姿に少しだけ、否。一時の間見惚れてしまった。
「どうだ?」
「えっと、良いと思います」
心の中と反して、返した言葉は素っ気なくなってしまった。
正直、この状況で頭が回らない。
なんというか先輩の見慣れない姿にこっちが照れてしまう。
「それにしても」
「どうした?」
僕が先輩に話しかけると、可愛らしく浴衣の袖を口元に持っていき小首を傾げる。
その仕草は反則だ。
「いえ、先輩それ怖いというかちょっと萌えますね」
「1まーい、2まーい……」
「先輩それは雪女じゃなくて、お菊さんです。確かに見た目のイメージは似てますけど」
それに雪女だろうと、お菊さんだろうと、先輩がやるとなんだかコスプレっぽい。
「お菊さんで思い出したのだが、落語のお菊の皿では意外とお茶目だよな」
「落語あんまり詳しくないんですけど、どんなのでしたっけ?」
流石に落語まではカバーしきれいていないので内容を知らない。
「なんだ、知らないのか。そうだな、夜な夜なお菊さんがお皿を数えている設定は知っているんだよな」
「設定て、そんな漫画か何かみたいに言って。呪われても知りませんよ」
「お菊さんを見に行きたいという人がいたのだ。お菊は恐ろしいのだが美しい。数える声を9枚まで聞くと、狂い死にするらしかった。そんなんだから、6枚まで数えたところでお菊さんを見に行っていた彼らは逃げ帰るんだ。その噂は瞬く間に広がり、やがて井戸の周りは客席ができたり物売りが出てきたりとまるで舞台演劇のようになっていく。ある時、6枚まで数えて逃げようとするが、増えた客で逃れなかったんだ。やがてお菊は皿を9枚まで数える。誰もがもう死ぬと思うが、10枚、11枚と数える声は続いていた。それは18枚まで続くとお菊は言った。「こう毎晩じゃあかなわないからね、明日はお休み、その分まで」ってね」
階段のイメージとは違いこの話のお菊さんは少し愛愛しさがある
「そういえば、聴いた話によるとそのモデルとなった井戸にはお金が投げ込まれているそうですよ」
「お金?なんとも日本人らしいな」
水があればすぐ小銭を投げ込む日本人の習性みたいなものだ。
「お菊さんが数えているのは、皿じゃなくてお金かもですね」
「なら私にも当日いっぱいお金を数えさせてくれよ(笑)」
闇に小説がいっぱい売れることを期待していると言ってくる。
先輩の顔は笑顔だが、声が笑ってないのが怖かった僕は無視して自分の読書を続けた。




