2話 入部しちゃダメですか?
斯くして、文芸部に入部することとなった雪本泰は、さっそく部室に顔を出すこととなった。
今日は昨日の続きでも読むかな?など思いながら扉を開けると、部活動紹介をしていた時の女子がこちらを持ち前の鋭い目つきで睨んでいた。
「あんた誰?」
彼女の発した声で寿命が縮まった気がした。
今僕は、昨日座っていた場所と同じところに座っていた。
正座で。
「で?、学校のマドンナであるゆかりを目的に入部してきたの?」
「(怖い、これイエスと答えてもノーと答えても殺されるやつだ……)」
答えられないでいると彼女が続ける。
「ゆかりは、あんたみたいなのが近づいていい相手じゃないの。わかる?」
背筋に冷たい嫌な汗が流れる。その時「ガラッ」と音を立てて扉が開く。そこにいたのはゆかり先輩だった。
「泰君来てくれたのか、うれしいよ!」
「ゆかり!ほんとにこんなの入れるの?」
「(こんなのってなんだよ!一応お母さんにとっては世界一かっこいいって言い聞かせられながら育てられたんだからな(泣))」
「その辺にしとかないか?第一私から誘ったんだ」
「でも……」
「ダメか?」
昨日も見せた悲しい表情をする皆越先輩。
「分かった……」
彼女も皆越先輩のあの表情には勝てないみたいだ。本人は気づいてないのがまたずるい。
「ところで君たち、どうせあの様子じゃ自己紹介もしてないのだろう?これから一緒に活動する仲間なんだ挨拶くらいしたらどうだ」
確かに来て早々、正座させられて説教だったからな。
部活動紹介でこちらから一方的には知っているが、向こうはこちらのことは知らないだろう。
知らない相手に正座させるやつの親の顔が見てみたいものだ。
「雪本泰です。よろしくお願いします」
「桜田弥久別によろしくしなくてもいいから」
名前に対して性格がかわいくないと言いかけたがギリギリそのセリフを飲み込む。
本人は、教えてくれなかったが校章を確認するとどうやら2年生のようだ。
あまり見ていると怒られそうなので、昨日皆越先輩に選んでもらった本を読んでおくことにした。
カチコチカチコチ
目の前の桜田のせいで集中できず昨日とは違い静寂の中、時計の音だけが耳に立つ。
時計の針がもう少しで5時を指そうかとしているところ椅子を引く音が鳴った。
そちらを見てみるとゆかり先輩が突然立ち上がったようだった。
「泰くん、弥久。すまないが用事があったのを思い出したので先に帰らせてもらう」
「お疲れさまです」
「あーうん、ばいばい」
弥久は読んでいる本から目を離さず適当に答えていた。
荷物をまとめ帰り支度していると弥久が話しかけてきた。
「あのさー 泰」
「なんですか」
「まあいいや。帰りながらはなす。家どっち方面?」
幸か不幸か家が同じ方向なのだった……
「で、話なんだけど……」
学校からしばらく離れて人通りもまばらになってきたころ、ようやく弥久は口を開いた。
「あのさ……」
「なんですか?」
「本当のところ目的は、ゆかりなんでしょ」
薄々予感はしていたけど、やはりそのことか。正直なところそれも理由の1つなので答え辛い。でも……
「そうですね……それもあるかもしれません」
「ーーッ!! ならっ」
「でもっ! それだけじゃないです。先輩に本を選んでもらってうれしくて、読んでみると面白くって、ここにいると楽しいかなと思ったんです。」
「…………」
「自分はゆかり先輩のことをよく知りません。でも、何かあって弥久先輩が気にかけてることくらいは分かります」
弥久先輩は、僕が皆越先輩に近づくのに執着なまでに警戒していた。だから皆越先輩に過去何かあったと考えるのが妥当だろう。
「そこまで友達のことを思って行動できるなんてすごいと思います。これも理由だって言ったら後付けですね」
気が付くと、家の前まで来ていた。弥久先輩とは別れを告げ家に入る。
明日は、何をしようか?そんなことを考えながら眠りにつくのだった。
桜田弥久
放課後、今日も弥久は部室へ向かっていた。
私にとって文芸部の部室は楽園も同然だ。教室の大半を占領する本棚には、いわゆるライトノベルがぎっしりと並べられている。
個人は到底管理できない量の本が部員なら読み方放題なのだ。学校には図書館も存在するが、あそこには私が読みたいタイプの本はない。
「(あったとしても、あれをカウンターで借りたり人前で読んだりする勇気はないんだけどね)」
そんなこともあり1番隅っこにあるあの部室はちょうどよかった。
扉を開けて肺いっぱいに空気を吸い込む。
すると紙独特の匂いを感じた。人によっては嫌いと言う人もいるが、私はこの匂いが好きだ。
「さて、今日はこれでも読もうかな?」
本棚から前から気になっていた本を選び、自分の特等席に座る。
数ページ読み進めたところで扉があいた。そこに居たのは1人の男子生徒だった。
「あんた誰?」
私はそう発していた。
今の時期ということは、新入部員なのだろうか?
何はともあれ、どうせゆかりにつられて入部したに決まっている。
私は、正座させ問いただそうとしたが、ゆかりの介入によって失敗した。
ゆかりが私用で先に帰った後、新入部員ー泰という名前らしいーを問い詰める機会を得ることができた。
4月と言えど部活をした後ということもあり空は茜色に染まっていた。伸びる並んだ影はまるで……
「(まるで恋人みたいじゃない!!)」
冷静にならないといけない。
これは、そういう物語を読みすぎてるせいだ。きっと外からはそんな風には見えていないと、無理やり言い聞かせる。
だいぶ学校から離れたところまで来てしまったようだ。
私は覚悟を決めて切り出す。
まずは初めにゆかりのことを目的なのかを聞いてみると案外あっさりと肯定した。
やっぱり……。こいつを部活に入れてはいけない。ゆかりにまたあんな思いをさせるわけにはいかない。
「でもっ! それだけじゃないです。先輩に本を選んでもらってうれしくて、読んでみると面白くって、ここにいると楽しいかなと思ったんです。」
しかし、続く言葉にふと昔を思い出す。ゆかりが私におすすめの本を渡して来たことを。
あの時はまだ中学生で、抵抗感のあるイラストの描かれた本を出されたときは正直、無いなと思った。
でも、それとは反対にうれしくもあった。それがきっかけでライトノベルを……いや、本自体をよく読むようになったのだ。
「(泰も私と一緒だったんだ……)」
「自分は皆越先輩のことをよく知りません。でも、何かあって弥久先輩が気かけてることくらいは分かります」
そうか気づいていたのか。気づいていてそっとしてくれてたんだ……
「そこまで友達のことを思って行動できるなんてすごいと思います。これも……」
なんだろうか、顔が熱くなるのを感じる。
こういう時は、なんていえば良いんだっけ?そう考えるも泰は家までついてしまったらしく、何も言えないまま別れることになった。
「(お礼言えなかったな……)」
そう心の中でつぶやき自分もまた帰路につくのであった。




