23話 執筆しなきゃダメですか?
いつもの文芸部教室。
普段、取り留めない雑談を提供しているのは僕だったが今回話し出したのは皆越先輩だった。
「泰君。そういえばどんな小説書くのかは決まったのか?」
言われて気づく。
色々と翻弄されていたせいで、すっかり忘れていたのだ。
「いえ、考えてません。というより忘れていました」
「そうか。なら良かった」
忘れていたのに良かったとはどういう事なのだろうか。
「私もかなり強引に押し付けてしまっていたからな。良ければだが、どういった方向性で書いていくかみんなで決めていかないか?」
先輩も押し付けてきた割には、律儀な人だ。
こういうところが先輩らしい。
「それなら助かります」
「力になれるよう頑張るよ」
「考えると言っても全く決めてなかったのでまっさらな状態ですよ」
文化祭まで、そこまで時間が多く残されているわけではないので難しいものは出来なさそうだ。
後からもらった資料によるとページ数はそれほど書かなくても良いみたいだが、推理小説や凝った設定が必要なSFを作るのは厳しいだろう。
そのことを頭において3人は思考を巡らす。
「まあ、設定としては現代を舞台にするのが妥当かしらね」
弥久先輩がみんなの意見を代表するように発言した。
「そうですね。現代って言うと結構限られてくるかもしれませんが仕方ないですね」
弥久先輩の意見は賛成できるので同意しておく。
ただし、設定で勝負しにくくなる分そのしわ寄せがストーリに来る。
つまり、話の展開だけでの勝負になりそうだ。
「するとスポコンとかラブコメとかになるんですかね?スポーツなんて学校の授業くらいしかやってないけど……」
「恋愛とかもっとダメそうね」
「何でそうやって急所を突いてくるんですか?弥久先輩」
悪意に満ちた言葉に言い返せない自分が悲しい。
真実とは時に残酷だ。
「ちょっと思ったんだが別に現代じゃなくても良いのではないか?」
今までの時間を否定するような発言。
「それだと設定を細かく決める時間がないって話したばっかりじゃない」
少し機嫌が悪そうに突っ込む弥久先輩。
「そうとも限らないぞ、例えばそうだな、日本神話とかを参考にすれば良いのではないか」
「なるほど……」
確かにそれはいい案かもしれない。
日本の神話を参考に設定を練れば昔の話だけでなくSFなどにも応用が利きそうだ。
個性的な神様が多いので設定に困ることはなさそうだ。
「そういう事ね」
遅れながら弥久先輩も気づいたみたいだ。
「でも、大まかな設定は神話を参考にするとして他はどうしましょうか」
方向性が見えてきたからと言って、あらすじが決まったわけではない。
むしろ大事なのは設定よりもそっちの方ですらあるのだ。
「それならなんだけど……」
弥久先輩が自信なさげに提案してくる。
「バトルものとかどうかな?」
バトルものだと小説に向いてない気もするが、戦闘シーンなども結構見かけることを考えるとありなのかもしれない。
「どうしてバトルものが良いと思ったんですか?」
「だってほら、良く化け物を倒して神様になった人とかいるじゃん。そうすると案外書きやすいのかなと思って。あとカッコいいし」
確かに、そういった神様は多いように感じた。
まあ、これくらい大まかな方向性が決まれば後は僕自身が細かいところを肉付けしていく番だろう。
「なんだか色々とありがとうございます。あとは自分で考えてみますね」
「ごめんね。私のせいで……」
いつもの様子は何処へやらといった感じでシュンとしている弥久先輩。
彼女も人付き合いの都合でこういったことができないのは分かっている。
それに初めて小説を書くのは不安もあるが、結構わくわくしている面もあるのだ。
「気にしないでください。本当に嫌ならそもそも全力で断っていますから」
この言葉は弥久先輩へのフォローでもあるが、僕の心からの気持ちでもあるのだ。
「少しやりたいことができたので今日はこれで帰りますね」
次々と浮かんでくるアイデアを早く文字にしたい。
なので僕は部活を早々に切り上げて帰路についた。




