213話 チョコを渡せんなくちゃダメですか?
1日の授業も終わり、放課後。
結局、皆越先輩に連絡する勇気もなく、今日来てくれるかは神頼み。
まあ、頼むのは先輩なのだが……
部室の前で一旦立ち止まる。
「開けないんですか?」
瑠璃は、僕の気持ちも知らずに扉との間に割り込んで勝手に開けた。
開いた扉の先を見る。
皆越先輩は……
「居た……」
来ていてくれれば、この緊張も取れるかと思っていたのだが、更に心臓がバクバクしてきた。
「お、お疲れ様です」
「やあ、泰君、瑠璃君」
読んでいた小説から、顔を上げて久しぶりと言ってくれる。
僕もそれに返した。
自分の定位置について、荷物を取り出す。
「はい、これ。弥久先輩と……瑠璃にも」
「なんで私には嫌そうに渡すんですか!」
「そんなつもりは全然ないよ」
瑠璃は顔をしかめる。
「言葉でなんと言おうと、表情が嫌そうなんですよ」
僕は、自分の口角を無理やり指で押し上げる。
「ゼンゼンイヤジャナイヨ」
「もう、良いです。泰がどれだけ渡したくないのかはわかりました。でも何故でしょう、これはこれでゾクゾクするのは」
瑠璃が危ない思想に至りそうだったのでこのへんでやめておく。
それに、こんなことより僕にはしなければならないことがあるのだ。
後1つだけ残った箱を取り出すために、カバンに手を突っ込む。
その手をなかなか引き出さないのは、決して箱がつかめなかったのではなく、先輩に渡す勇気がなかったから。
一度掴んだ箱を手放し、カバンから抜いてしまう。
そんなことが何度かある内に時間は過ぎて、最終下校時刻になってしまった。
「じゃあ、お先に」
弥久先輩はちょうど切が良いところだったのか本を閉じ部屋を出ていく。
「あ、私も帰ります」
瑠璃もそれに続いた。
「それじゃあわt」
「先輩少し待ってください!」
皆越先輩が言いかけたのを遮る。
「待つも何も、私が来たのは君と話があったからなのだが」
思いもしなかった言葉に口が開いてしまう。
皆越先輩はそんな僕がおかしかったのか笑っていた。
用事があると言った割には、何も話し出さない先輩。
「あの……」
待ちきれなかった僕は先に口を開いた。
「済まない、少し、心の準備をな」
先輩でも自分みたいなことがあるのかと思った。
彼女はいよいよ覚悟を決めたのか頷くとカバンからノートPCを取り出した。
「これは、あの」
机の上に出し開かれたそれは、あの日先輩が学校に持ってきていた、鬼頭さんの形見だった。
「ああ、そうだ」
先輩は、それだけ言うと、黙ったまま起動画面を見つめ立ち上がるのを待つ。
僕は、椅子をもって近くに移動し、一緒に待つ。
起動して、パスワードを入力してデスクトップ画面が現れた。
そして、その中の1つのホルダーに目が行く。
名前は、雪本泰へと書かれていた。




