210話 逆チョコじゃダメですか?
「それで、私を読んだ理由をそろそろ教えてもらっても良い?」
エドが眠そうな顔をしながら言ってくる。
「笑わない?」
「笑ったこと無いでしょ……」
「まあ、確かに。その、バレンタインに男側から送り物するのってどう思う?」
エドは、少しだけ考えるような仕草をする。
「別に良いんじゃない?」
「そんな適当に⁉︎」
「適当に言ったわけじゃ無いって」
と笑いながら言う。
いくら言葉で否定したところで、あの言い方だと適当に答えたようにしか聞こえない。
「私の国ではそっちの方が普通だしね」
そういえば、エドはイギリスが出身だった。
「やっぱり薔薇の花束とか送るの」
外国のバレンタインのイメージとしては、花を送るのが印象に残っている。
確か色で意味合いとかが異なっていた気がする。
「薔薇を送るのもあるけど、日本と同じようにチョコを渡す人もいるよ。あとはカードを送ったりとかも多いね」
意外と日本の物と変わらないことに驚く。
「他にも食事に誘ったりとかかな。……で、なんでそんなジロジロ見てるのかな?」
ジロジロ見ていたわけではないのだが、
「エドって学校でモテるんだろうな、と思って」
「え、まあ、それなりに」
普通こういうときは「それほどでもないよ〜」というところだろう。
何がそれなりにだよ。
モテやがって。かーっ、ペッ
「嫌味ですかそうですか」
「嫌味で言ったわけじゃ……そういう泰だってモテるでしょ」
「へ?」
何言ってるんだろ?
モテるわけないじゃん。
「ほら、瑠璃ちゃんとか弥久ちゃんとか。他にも周りにいっぱいいるでしょ?」
「あー」
考えてみればそうだった。
でも僕が望んでいるのはそういうのじゃない。
もっとこう……言葉では表しにくいけど
「なんか崇拝される感じの持て方が良い」
「崇拝って言い方。学園アイドルみたいなってことかな?」
「そう、それ」
エドは僕の顔を見てため息をつく。
「モテるっていうのも大変だよ」
エドは嫌味で言ってきたのかと思った。
実際その通りだったのかも知れないが。
「あ……わかるかも」
「なんか少しイラッと来るね」
「言い出したのはエドの方じゃないか」
「そうだけど、ムカつくもんはムカつく」
なんて理不尽な。
「それで結局どうするの?ゆかりに渡すんでしょ」
なっ、どうして、って流石にわかるか。
それほど短い付き合いでもない。
「どうすれば良いと思う?」
「それは私が決めることじゃないかな」
「わかってるよ。そうじゃなくて、何渡せば良いか一緒に考えてってこと」
「それなら喜んで」
エドはおもむろにスマホを取り出す。
「こんなのどう?」
見せてきたのは、スマホの画面。
そこに写っていたのは、某通販サイトのバレンタイン特集ページ。
「真面目に考えてよ!!」
「真面目に考えてるよ。ほら、良く考えてみて。良い?ここに乗ってるのはバレンタインのベストセラー順なの。つまりこれを買っておけば間違いないから」
そう考えれば、間違っていないのかもと、丸め込まれてしまった。
「まあ、そうかも知れないけど。一緒に見て回ろうよ」
「はいはい、良いよ」
「結局ネットに乗ってたやつ買ったね」
「うるさい、良いじゃん。良さそうなのは値段がちょっとあれだし……そうすると必然と選択肢が限られるわけで」
「悪いとは言ってないけど……じゃあこれで私はもう帰って大丈夫だね」
エドは駅の方に歩いていく。
「まって」
呼び止めると彼は振り返る。
少し離れてしまっていたので、僕は駆け足で彼のもとへ寄る。
「どうしたの」
「これ」
僕はさっき買ったチョコの袋の中から、小さな包装がされたチョコを取り出す。
「これ」
「泰……私、普通に女の子が好きなんだ。ごめん」
「ちがうから!ほら、付き合ってくれたお礼だよ。瑠璃たちに渡すようにも買ってたから。そのあまり」
「なるほどこれがジャパニーズのツンデレってヤツデスカ」
確かエドは日本に幼い頃に来てた気がする……
「そういうの良いから」
「ありがとね」
エドは今度こそ本当に帰っていった。
僕は皆越先輩に当日会えるか連絡する勇気はなく、たまたま部活に顔を出してくれるのを願うばかりだった。




