208話 チョコを選んじゃダメですか?
「おーい!弥久こっち、こっち」
手を振って私を読んでいるのは、真由美。
今日は、なんか用事が在るとかでつきあわされた。
「いやー、遅かったね」
曲がりなりにも、付き合ってあげているのにこの言われよう。
誤解されないように言っておくが、私が遅刻したわけではない。
「それで結局何のために呼んだの?」
昨日の夜、突然待ち合わせの場所と時間だけが送られてきた。
理由を聞いても教えてくれなかったので、詳しい内容なんかは知らない。
「気になる?」
こめかみに力が入るのが自分でもわかる。
「帰る」
イラッと来た私は、踵を返し乗ってきた電車の方へ歩き出した。
「ま、まって、まって。私が悪かったからっ」
慌てて私の腕を掴んで謝罪してきたので、仕方がなく歩くのをやめて真由美の方に向き直る。
私は呼び出した理由を吐かせるために無言の圧力を掛けた。
「(ごくり・・・)なかなかその顔も、うん、なかなか……じゃなかった。えっと、もうすぐバレンタインでしょ」
もう1周間も経てば14日になる。
「うん、それで」
「それでって言われても」
普段からかってくるばかりの彼女がこんな戸惑ったような表情を見せるのは珍しい。
「もしかして、好きな人へのチョコを選んでほしいとか?」
「間違ってはないけど……」
正解しているわけでもなさそうな答え方。
「選ぶのは私のじゃなくて弥久のね」
「へ?」
真由美の言葉に思考回路が追いつかない。
「いやいやいや、私別にそんなんないからっ」
慌てて否定する私。
何を否定しているのか自分でも分かってない。
「弥久がそんなに嫌がるんだったら無理にとは言わ……」
「お願いしますっ」
私はつい食い気味になってしまい顔が熱くなる。
「ははっ、じゃあ行こっか」
始めに来たのは、ショッピングモールの特設コーナー。
いつもこの時期になると、様々なチョコが売られるようになる。
「こんなのどうかな?」
適当に目についたチョコを手にとって見る。
「なるほど。弥久の泰へ愛の大きさは痛いというほどわかったよ」
変なことを言うので、慌てて自分が手にとったチョコを確認し直すと、それは大きなハートのチョコだった。
「ちっ、ちがうかりゃ」
「焦っちゃって」
「違うからっ」
あーはいはい、というような顔で適当に流す真由美。
何回言おうが納得してくれなさそうなので、諦める。
それに、否定し続けるのも嫌だったのだ。
「こっちのにしたら?」
真由美が持ってきたのは小さな箱。
中には、1口サイズのチョコが3つ並んで入っているらしい。
「でも、これじゃ」
義理みたいじゃないかな……
「そっか」
「あのさ、手作りとかはダメかな?」
「うーん、良いんじゃない?」
意外とあっさりした回答。
「それにしても、料理とか得意だったんだ」
意外そうな表情を浮かべる。
「そりゃ、一応飲食店でバイトしてるし……」
「あの喫茶店?」
「うん、真由美が私にメイド服を押し付けてきたところ」
真由美は私と目を合わせようとしない。
「そうと決まれば、ここにいても仕方ないし、材料買いに行こっか」
勝手に歩いていく真由美を仕方なく追った。




