207話 速読じゃダメですか?
HRも早く終わり向かった部室にいたのは、皆越先輩だった。
「泰君おはよう」
「え、ああ。お疲れさまです。どうしたんですか?」
皆越先輩は、僕の言葉の意味が一瞬わからないような顔をしていたが、すぐに理解できたようで、
「そうだな、もう夕方なのにおはようはおかしかったな。いやぁ、最近昼夜逆転生活だったもんで」
そういうことでは無いのだが、突っ込んだら負けなきがする。
「あの、前僕が解除したパソコンって何が入ってたんですか?」
「ああ、あれか……」
聞く機会がなかったというのも有るが、それ以上に言いたくないことがあったのかも知れないと気を使ったからだ。
でも、もう我慢できずに聞いてしまった。
「……黙っているわけにもいかないな」
先輩は、僕をしっかりと見て言った。
「だがその前に、お手洗いに行かせてくれ。落ち着いて話せないからな」
先輩は教室を出て行く。
僕は彼女が戻ってくるのを待った。
「遅い……」
もう10分も立っている。
時間が掛かるとしても、流石にここまでではないだろう。
もしかして逃げたのかと思うも、カバンは教室に置いたままだったので違うだろう。
ならば……
最悪の予想が頭をよぎった時、ようやく扉が開いた。
今か今かと構えていたものの、勢いよ開くとは思っていなかったのでその衝撃に驚いて得しまう。
「おっはようございまーす」
入ってきたのは瑠璃だった。
あと、そのあいさつ僕が知らないだけで流行ってるのだろうか。
「皆越先輩は見なかった?」
「私にあって第一声がそれですか?もっと私に優しくしてくれても良いと思うんでうけど。……先輩なら知りませんよ」
「そっか。」
瑠璃は悲しいような困ったような表情を作る。
「もー、そんな顔しないでくださいよ。嘘ですから。もうそこまで来てますよ」
人のことを言ったが、僕の相当な顔をしていたらしい。
数秒もすれば、瑠璃が言った通り先輩2人が来た。
「泰おはよう」
弥久先輩はボソボソと僕に挨拶してきた。
うん、もう何も言わない……
並んで入ってきたのは当然皆越先輩。
彼女は僕の耳元まで口を近づけ、
「あの話はまた今度な」
と言ってきた。
そして僕は悟る。
帰って来なかったのはこれが目的だったのだろうと。
「あのあのっ」
瑠璃が淀んだ空気を壊そうと声を出す。
当然として、皆彼女の方を見る。
「えっと、その、泰と弥久先輩ってどっちが本読むの早いんですか」
あまりにもいきなりな質問。
まあ、問題ない。
すぐに答えてしまえば簡単に終わる。
『僕だよ(私よ)』
僕は弥久先輩の顔を見る。
向こうも同じようにこっちを見てきていた。
「何よ」
弥久先輩は不服を唱える。
「いや……」
僕はそれに気圧された。
それを見かねた瑠璃が、
「実際にやってみたらわかるんじゃないですか?」
と言ってきた。
そんなこんなで、勝負が始まった。
瑠璃が持ってきた本は「境界線上のホライゾン」
僕もそうだが、先輩の方も読んだことがなかったらしい。
「流石に分厚い」
どう考えても文庫本にする分量じゃないそれを持ち上げる。
この見た目で敬遠していたのだが良い機会だ。
瑠璃の合図で僕たちは読み始めた。
「やっとおわったー」
大体1時間がたった時終わりを告げたのは弥久先輩の方だった。
僕はタッチの差で負けてしまった。
「これで私の勝ちね」
嬉しそうに言う先輩に瑠璃が不思議そうな顔をする。
「何言ってるんですか?」
「何って、もしかしてここまで来て難癖つけるき?」
「難癖と言うか、まだ終わってないですよ」
「は?」
瑠璃は、原稿用紙を6枚だす。
「え?」
こんどは僕だった。
「どうしたんですか鳩がマグナム弾食らったような顔をして」
「え、いや、それ何」
僕は、原稿用紙を指差して言う。
「これはちゃんと読んでたかあらすじを、まとめてもらおうと思いまして」
「たった400字詰め原稿用紙3枚で?」
「ああ、多すぎました?なら2枚でも良いですよ」
違う、そうじゃない。
え?何500頁超えのあらすじを1200字でまとめろっていうの?
一見できなくはなさそうに見える。
がしかし、求められているのはそんな単純な物ではないのだろう。
しっかり隅々まで読んだということを証明しなければならないのだ。
たったこれっぽっちの紙切れで。
「思うところも在るかもですがとりあえずやってみてください」
瑠璃は僕の反論を認めず、押し切るので仕方なくシャーペンを取る。
先輩も書いたのだが、彼女も苦戦していたようだった。
「じゃあ見せてください」
ふむふむとかわざとらしく言いながら読む瑠璃。
なにげに彼女は読むのが早いらしく、もしかしたら弥久先輩よりも早いのかも知れない。
「ダメですね」
2つとも読み終わった瑠璃は言い切る。
「どこがだよ?」
瑠璃に聞くも無視して今度は彼女が原稿用紙になにか書き出していた。
程なくして書き終わったそれを見せてくる。
そこには500頁の全てが詰まっていた。
ここまでできるのかと驚くほどに。
美玖先輩の方も口をあんぐりとあけていた。
流石は小説家。伊達に文を書いてお金を貰ってない。
「どうですか?」
ドヤ顔をする瑠璃を見て思った。
こいつ自慢したかっただけだ。
気がつけば下校時刻を過ぎている。
それには、池田先生が入ってきたことで気づいた。
先生が「何していたのですか?」と興味をもって、面倒なことになったのはまた別の話。




