202話 パスワードじゃダメですか?
いつも通りの部室……ではないか。
部室の雰囲気はどんよりとしていた。
重たい空気になると分かっていながら皆が来たのは、そうなることが分かっていても1人で居るよりは良いと思ったのだろう。
なぜならば僕がそう思っていたから。
「泰君ちょっと良いか」
時間も遅くなり、そろそろ帰らざるを得なくなってきた時、皆越先輩に呼ばれる。
「はい、何でしょうか?」
僕がそう聞くと皆越先輩は瑠璃と弥久先輩を見る。
「私達は先に帰るわね」
「あ、私もこで失礼しますね」
2人は空気を察して席を外してくれた。
部室の扉も閉められて、僕と皆越先輩だけになる。
これだけ舞台が整っていながら、先輩はまだ一言も話さない。
そして、いよいよ戸締まりをしなければならない時間でようやく口を開いた。
「これ……」
先輩が出してきたのは一台のノートパソコン。
僕はそれに見覚えがあった。
「それは、鬼頭さんの……」
先輩は頷く。
ノートパソコンを開いて電源ボタンを押す。
起動音がなり、サークルが回る時間が異様に長く感じる。
ログイン画面が表示され、そこにはユーザー名として「せもぽぬめ」と出ていた。
鬼頭さんらしさが、今はとても切なく感じる。
「何かあった時は、中を見てくれって言われていたんだがパスワードが分からなくてな」
だから何か聞いていないか?ということなのだろうか。
「心当たりとかありますか」
無いから聞いてきたのだろうが、念の為。
皆越先輩は少し考えた後、
「前は私の誕生日って言ってたんだが……」
「それだと開かなかったんですか?」
「ああ」
僕は気まぐれに自分の誕生日を入れてみる。
「分かったのか?」
先輩は少し期待した顔で聞いてくる。
「残念ですが、何も……あ」
しかし、意外にもログインできたのだ。
「僕の誕生日でした」
「そう、か……」
先輩はログインできたというのに少し残念そうだった。
「あなた達まだ居たの。鍵が戻って居ないからまさかとは思いましたが」
部室の扉が突然開いて入ってきたのは、池田先生。
「すまない。すぐ帰るよ」
「そうしてください。戸締まりは私がしておきます」
先生は扉近くに掛けられている鍵を取る。
そして僕は、パソコンに何が入っていたのか知らないまま家に帰った。




