201話 サヨナラじゃダメですか?
深夜の非常灯のみで照らされた院内を歩く。
その中で異様に明るく光っている自販機に僕は来ていた。
12月後半とはいえ、室温は管理されているので寒さは感じない。
それでも、今は温かい飲み物が飲みたかった。
コーヒーのホットをカフェラテとブラックそれぞれ1ずつ買う。
手を握った缶ごとポケットに突っ込み、病室へ戻る。
病室では、皆越先輩が気が気でない顔をして1人座っていた。
正確に言えば1人出はなく、鬼頭さんがいるが、彼女はあれから目を覚ましていない。
「先輩、戻りました」
僕は、皆越先輩にすら聞こえたか怪しいほどの声量で言う。
「おかえり」
それでもしっかりと聞こえていたようで、返事をかえしてくれた。
皆越先輩の声は、僕と同じように小さい。
しかし、僕のように意図的に小声にしたのではなく、気持ちの面から結果的にそうなってしまったといった感じだ。
僕は無言のまま、さっき買ったばかりの缶コーヒーを取り出し選ばせる。
皆越先輩は、ブラックコーヒーの方を受け取った。
「ありがとな……」
「いえ」
会話が特に生まれるわけでもなく、短いやり取りだけで終わる。
この沈黙が気まずくて席を立ったわけではないので問題はない。
むしろ、静かなのを今の僕たちは望んでいるはずだ。
エアコンと蛍光灯の音だけが響いていた空間にプルタブの開ける音が2回鳴る。
『…………』
何も考えれなくて、時間の感覚が曖昧になる。
視界も焦点を定めずただぼーっとしていると、鬼頭さんが動いたような気がして、一瞬にして現実に戻ってくる。
そんなことが、何度も起こる。
しかし、その全てがただの勘違いで、何も変化の無い時が過ぎていくだけだった。
鬼頭さんの寝顔を見ながら考える。
こんなときだと言うのに彼女の親はどうしているのだろうか。
最近知り合ったばかりの人の、そんなところを考えてしまうのは、いささかでしゃばり過ぎている。
それにそんなことを考えるなんて、彼女は僕にとって何なのだろう。
客観的に見れば、赤の他人。
良く言って、知り合いか友達程度が山の席か?
「こんな大変なときでも私達意外誰も来ないのか……」
つぶやいたのは僕ではなくて、皆越先輩だった。
この先を聞いても良いものだろうかと悩み、先輩を見る。
「そんなに私を見られてもな……私も知らないよ。兄さんはいつも人の心配ばかりして、自分のことなんて後回しだから」
どんだけお人好しなんだよこの人……
「病気のことを話してくれたのも、かなり後にたまたまバレてしまってからだからな。気づかなかったら、一生黙っているつもりだったんだろうな。それこそ墓場まで持っていく覚悟だったんだろう」
もし寿命を分け与えることができたなら、彼女は後どれだけ生きられるだろうか。
そんなことを考えたが、すぐに1つの答えにたどり着く。
彼女なら、そんなことを嫌がり誰からも受け取ることは無いだろうと。
[12月26日 AM01:02]鬼頭風香は僕たち2人が見守る中で静かに息を引き取った。




