199話 急いで向かっちゃダメですか?
僕と皆越先輩は今、2人電車に揺られていた。
目的地は鬼頭さんが入院している病院。
観覧車で皆越先輩に掛かってきた電話は、病院からだったのだ。
本人に変わって看護師が連絡をくれた。
本人が連絡をしてこない理由は、すぐ考えればわかる。
できない状況にあるからだろう。
つまり、病気の容態が急に悪化したのだった。
あれから僕たちは、急いで遊園地を出た。
ゴンドラがゆっくりと回るのがもどかしく、待ちきれなくて立っていたら降りる時に怒られてしまった。
しかし、そんなことを気にしている暇などない。
一刻も早く、鬼頭さんの元へ向かう。
僕たちはそれだけ考えていた。
場面は戻り、電車の車内。
クリスマスということもあり、電車だと言うのに賑わっている。
それと比べ僕と先輩の間に楽しげな雰囲気など微塵もない。
「僕、来ても大丈夫だったんですか」
「ああ、兄さんも泰くんのことを気に入ってたからな。そのほうがいい」
先輩の声にいつものような元気はない。
それもそのはず、自分の大好きな人の命が危ない状況なのだ。
こういう時は、僕がしっかりしないといけない。
独特のアナウンスが流れ、目的の駅につく。
扉が完全に開ききってないのに、それすら待てずに間をすり抜けていく。
病院まで数百メートル程度なのだが、全力で走るには少し長く感じた。
苦しくて、目の前がクラクラする。
でも、鬼頭さんの辛さに比べたら大したことないと思い、だいぶ上がらなくなった足を無理やり動かす。
走っていればいつかは着くもので、病院の目の前まで来ていた。
まだ慣れない病院内を走ってエレベーターまで向かう。
表示されているのは運悪く9階。
「糞っ」
僕は上のボタンを殴りつける。
「泰君、こっちだ!」
先輩はエレベーターだと時間がかかるとすぐに判断し、非常口と書かれた重たい扉を開け先に進む。
僕もそれに続くとそこは階段になっていた。
普段の僕なら、こんなに足が千切れそうになってまで階段をのぼることはできなかったと思う。
それでも、踏み出せたのは今急がないと取り返しのつかないことになってしまうと思ったから。
そして、先輩が僕の手を引いてくれていたからだろう。
先輩が手をつないでくれている。
一瞬でもそんなことを思ってしまった自分がたまらなく嫌だった。
そんなことを考えている暇があったら少しでも早く、鬼頭さんのところへ向かわないといけないのに……
なのに僕は、階段の折返しの時一瞬見える横顔まで見とれてしまっていた。
本当に嫌になる。こんな最低な自分に。




