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ライトノベルじゃダメですか?  作者: 東雲もなか
始まりの文芸部
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1話(プロローグ)

 入学式も数日前に終わり、幾分か高校生活にも慣れてきた春の午後の授業。雪本(ゆきもと)(ゆたか)はあくびを噛み殺しながら放課後のことを考えていた。


今日から部活動見学が行われるというのがこの学校の決まりだ。


 新入生は3日で色々な部活動を回り、そこでどの部活入るかを決めることになると入学後の全校集会で説明があった。


 部活動ごとの説明自体は既に数日前に終わっているため、あらかた目星は付けている。


 まず初めに運動は苦手なので文化部に決めた。文化部は吹奏楽部や美術部などの王道のものから、ミステリー研究会など本当に実在していたのかと驚くようなものまでさまざまだった。


 その中で雪本泰は昔から好きだった本を部活動の目的として扱う文芸部に行こうかと考えていた。いかにもゆるそうだし。部員も現在2名しかいないらしい。


 部活動紹介は副部長1人でやっていたが部長はどんな人だろうか。そんなことを考えているうちに終業のチャイムが鳴った。




 HRが終わり雪本泰は文芸部の部室へ向かう。


 文芸部は、別棟の自分のクラスからは少し離れた場所にあるらしい。1度外を通らなくてはならず雨の日は大変そうだ。


 嫌だと言っても文化部はそこに集中しているため避けては通れない道なのだが。



 別棟に到着し階段を上る。文芸部は、最上階である3階の1番奥という最悪な立地条件にある。


 説明では、部員は来たいときに部活に来て本を読んで帰りたいときに帰るそうだ。


 それなら毎日ここに通う必要もないわけだし、この立地にも目をつむることもできるのかもしれない。


 そうこうしているうちに部室の前へとついた。階段と緊張で上がった心拍数を落ち着かせるために深呼吸をする。


 心の準備を済ませ扉を開けた。


 扉を開けた瞬間、紙の独特な匂いを感じた。入り口からすぐのところには会議用の長机が1脚置いてあり、そのほかの教室のほとんどを本棚が占領していた。


 長机の1番奥の窓際の席には女子生徒が1人居て、読んでいた本から顔を上げこちらを見ていた。


「ようこそ、文芸部へ!」


 歓迎のあいさつと共に見せた微笑みは天使さえも恋に落ちるような可愛さだった。


「あ、あの 見学に来た雪本泰です」


「私は、部長の皆越(みなこし)ゆかりだ。よろしく」


「ゆっくり見学して行ってくれ、と言いたいところなんだがな……特別なことをやっているわけでもなくただ本を読んでいるだけなんだ。うちの部には本を書いている部員もいないしな。そうだ!泰君。本は好きかい?」


「えっと、まあ、はい……」


「それはよかった。どんなジャンルが好きとかあるのか?」


「好きなジャンルですか?そうですね……頭脳戦とかですかね」


「なるほど頭脳戦か!」


 そう言い残すと皆越ゆかりは、立ち上がり本棚の方へと消えていった。


 制服の校章を見るに、皆越ゆかりは3年生のようだ。


 長い髪は艶やかさがあり、身長も高めでスタイルが良い。さながらどこかのお嬢様といった感じだ。


 こんな先輩と放課後を一緒に過ごせるなら悪く無いのかも知れない。



「泰くん。こんなのはどうだろうか?」


どうやら僕のために本を探してくれていたようだ。皆越先輩は数十冊の本を抱えて戻ってきた。


「どうやら沢山あるみたいですけど、どういった内容なんですか?」


「よくぞ聞いてくれた!これはゲーマーの兄妹が全てゲームで決まる異世界を制覇せんとする話で、こっちのは実力で待遇が変わる学校を舞台とした話で、さらにこっちが……」


「あの、先輩もう大丈夫です」


 このままだと下校時刻まで話しそうな勢いだったので言葉を遮った。


「では、これを読んでみようと思います」


 適当に並べられた本を手に取ってみる。表紙には可愛い女の子のイラストが描かれた、いわゆるライトノベルと呼ばれるものだ。


 こういうものは少し抵抗感があり普段読まなかったのだが、良い機会なのでページを開いてみた。




「……か君、泰君」


先輩の声に現実に戻される。


「ようやく気づいてくれたようだな」


「すみません、ちょっと集中してたみたいで」


「いいや、気にすることはないさ。それより気に入ってもらえたみたいでうれしいよ。ただもう下校時刻でね。持って帰ってもいいのだが、どうせまた明日来るのだしその時でもいいか」


「えっと、明日、ですか?」


「(明日は他の部活を見ようと思ってるのだけど……)」


「ああ、そうだよ。そういえばまだ入部届を渡してなかったな。これ名前以外のところは私が記入しておいたから、そこだけ書いてもらえるかな?」


「まだ入部すると決めたわけでは……」


「えっ、そうなのか?」


 整った先輩の顔が不安そうな表情になる。


「そうだよな。すまなかった、忘れてくれ。」


 一度前に出した手を下ろし、入部届を持つ手に力が入っているのを見ると罪悪感を抱いてしまう。


『…………』


気まずい沈黙を破ったのは先輩だった。


「私はただ、泰君と一緒に活動出来たら楽しそうだと思っただけなんだ。君があんなに楽しそうに私の勧めた本を読んでくれていたから……」


 逢った時の自信にあふれた喋り方と違い、今はか弱い少女のようだった。


 そこまで言わせておいて、雪本泰のとれる選択肢はほかには残されてはいなかった。

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