195話 皆越と観覧車じゃダメですか?
「泰君、それじゃあ私達もお化け屋敷に行こうか」
皆越先輩は歩きだす。
今までの全員がお化け屋敷に行っていると知っているのだろう。
そう考えれば自然な行動だ。
この流れがあれば、特に意味もなくそこへ行こうとするだろう。
僕ならそうすると思う。
「先輩少し待ってください」
僕は先輩を引き止めた。
先輩は歩みを止め、振り返ってくる。
髪の毛が振り向いたときの遠心力で舞、風にのってなびく。
先輩の綺麗な闇に溶け込むような黒髪が、無数のLEDを反射するようにきらきらと光っていた。
「綺麗だ……」
僕はため息を漏らす。
うっかりとこぼしてしまったセリフに羞恥を感じながらも、見とれてしまっていた。
皆越先輩と僕の間には多少手を伸ばしたくらいでは、届きそうもないくらいの距離がある。
しかし、その距離を持ってしても先輩の優しい金木犀のような香りが届いてきたように錯覚する。
「どうしたんだ?」
幸いとして僕の放ったセリフは聞き取れていなかったようで、先輩は続いて何も言い出さないことを不思議そうにしている。
僕は、ようやく我に返って思い出したように言う。
「先輩、その、観覧車に乗りませんか」
今の僕の心臓はバクバク。
言わなければ良かったという後悔と、ここから逃げ出して消えてしまいたいという衝動に駆られるが、辛うじてその場に留まることができていた。
「観覧車?」
僕は先輩からの返事があったことに少しの安心感を得る。
ここで勘違いしてはいけないのは、まだ了承されたというわけでは無いということ。
僕はもう1押しの言葉を続けてた。
「はい、観覧車です。そこから見るイルミネーションが綺麗だって、エドが……」
ここで他人の名前を出して逃げてしまった自分をぶん殴ってやりたい。
でももう遅い。
「そうか……」
皆越先輩はなにか考えている。
その思考がどのようなものだったのか僕にはわからない。
なにか感づいていたのか、それとも特に何も考えていなかったのか。
ただわかることは、その時間はそれほど長くはなかったということ。
「そうだな、せっかく出しそこに行くか。考えてみれば泰はずっと同じところに連れ添われて、退屈だっただろうからな」
先輩は、OKしてくれたばかりか僕への気遣いもあった。
そうと決まれば、ここにじっとしていても時間の無駄ということですぐに移動する運びとなった。
実のところ、閉園時間までそれほど時間が残っているわけではない。
まだ、焦るまでは無いが、それでもある程度急ぐに越したことはないだろう。
程なくして、観覧車の前に着く。
近くで見上げるとそれは、以外に大きくて首が痛くなりそうだった。
僕たちは、少しして満足すると、ゴンドラに乗り込んだ。




