172話 瑠璃と2人じゃダメですか?
「来ませんでしたね」
瑠璃が読んでいた本を片付けながら言う。
皆越先輩についてのことを言っているのではない。
彼女がこの頃、顔を見せていないのは事実だがそれとは別だ。
では誰かと言うと、弥久先輩以外にないだろう。
「来なかったな……」
早めに帰ったあの日から、弥久先輩も来なくなってしまった。
それだけ部にとって重要な人物だったのだ。
「泰も部活に居づらいのなら来なくて大丈夫ですよ」
「え?」
僕は瑠璃の言っていることがわからなくて困惑する。
「だから、ほら。私達はどうせ同じクラスですから。2人だけならここに来る必要もないのかなって。それに……いえ、なんでもないです」
それに、ここにいると思い出したくないことを思い出してしまう、と言いたかったのだろう。
確かにそれはある。
ここにいるだけで、皆越先輩のこと、そして何より鬼頭さんのことを何度も思い出してしまう。
彼女の意識はまだ戻っていないらしい。
もしくは、戻っていたとしても教えてくれないだけなのかもしれなのだが。
「僕は、ここにいるよ……」
例えつらくても、僕はここに来なくなったらいけないという気がする。
理由はわからない。
でも、逃げたくなかった。
「そうですか、わかりました。私はもうそのことについては何も言いません」
瑠璃は、荷物の整理が終わると教室を出た。
僕も一緒に続く。
廊下に直接夕日は差し込まないのだが、オレンジ色に染まっていた。
「そう言えば、弥久先輩は何をしているのでしょうね」
「さあ、な」
そんなことわかるわけない。
考えたくはないが、僕たちを見捨てた……
流石にネガティブになりすぎだな。
それはないにしても、今の文芸部の空気が耐えられなかったのかもしれない。
元々、自由参加の部活だったのだ。
最近ではほぼ毎日活動をしていたが、続ける義務はない。
むしろ、楽しくなければ離れていくのが普通だろう。
僕が弥久先輩の立場なら同じことをしている。
だから、先輩を責めることなんて誰もできやしない。
靴を履き替えるため本校舎の下駄箱まで来た。
「瑠璃先に靴履いてて」
「はい?うん、わかりましたけど」
僕は、3学年の下駄箱を見に行く。
「確か先輩のクラスと出席番号は……」
曖昧な記憶と推測で先輩の下駄箱を見つけた。
「やっぱりか」
そこには予想していた通り、うっすらホコリが溜まり始めている。
しばらく学校に来ていない証拠だ。
もしかしたら、少しくらい顔をのぞかせているのかもと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
僕は瑠璃が待っているところまで行くと一緒に帰った。




