171話 居なくなっちゃダメですか?
文芸部部室は少しさみしい雰囲気だった。
ここ最近気温が下がって来たということもあるのだろうが、第1は皆越先輩がもう1周間も来てないからだろう。
先生によると、学校にも来てないらしい。
おそらく、鬼頭さんのところに付きっきりなのだと思う。
鬼頭さんは、あれから目を覚まさない。
これも同じく聞いた話。
あんな事になった手前、僕が彼女のもとにどの面下げて行けようことか。
「今日も来てないみたいね」
弥久先輩が先生に言った。
「そうですね。学校にきてません」
「そう……」
先輩は、落ち込んだ声で答える。
「皆越先輩が居ないだけでこんなに静かなんですね」
しみじみと瑠璃が言う。
『……………』
別に、普段、皆越先輩だけが騒いでいるだけではない。
それでも彼女が居ないだけで、驚くほど静まり返っていた。
僕たちの中で彼女はそれだけ大きな存在だったというわけだ。
「私、今日はもうかえるわ」
ここの居心地が悪かったのだろう。
それは少なからず僕も感じている。
「気をつけて」
だから僕も引き止めることなんてしない。
「私も、仕事がありますので、ここで失礼させていただきますね」
「はい」
そうして残されたのは、僕と瑠璃の2人。
普段つきまとってくる瑠璃だったが、こうして部室で2人きりになるのは意外と少なかった。
「今日は瑠璃も帰るか?」
「泰はどうしますか?」
「僕は……」
少し考える。
「もう少しだけ……いるよ」
間髪入れずに瑠璃が、
「それなら私も付き合いますね!」と言ってきた。
ただでさえ僕の方へ寄せている椅子を更に近づけてくる。
でも不思議と今日は嫌ではなかった。
多分僕は寂しいのだと思う。
本当に自分勝手で嫌気がさすが。
今なら行けると思ったのだろうか、瑠璃が頭を肩に載せようと傾ける。
流石に今の僕でもそれは躱した。
「何で避けるんですか」
瑠璃が、いつものふくれっ面を見せつける。
僕はそんな彼女をしばらく見つめる。
普段とは違った反応に不思議がる瑠璃。
「わかったよ」
「???」
「肩に頭、置かせてやるって言ってるんっだよ」
瑠璃はびっくりするも直ぐに幸せそうに寄りかかってきた。
ついでにと言わんばかりに、腕まで絡ませて。
本を読んでいると、いつもより近い瑠璃の唇が僕に囁きかける。
「私は、ずっと泰のもとに居ますからね」
背中のほうが、こそばゆくなるような、そんな甘い声。
「どういうことだよ」
僕はその意味がわからない。
否、わかっている。
でも、知りたくないのだ。
怖いから。
「わからないなら、それでも良いですよ」
瑠璃は答えなかった。
そのことを言葉にしたら、僕がつらくなるのを分かっていたのだろう。
だから、はぐらかした。
「そっか……」
日も落ち、気温も下がってきた教室。
でも、僕の右肩はほんのりと暖かかった。




