164話 活字離れじゃダメですか?
「これを見てくれ」
そうやって1枚の紙を見せてきたのは皆越先輩。
書いてあるのはどうやら、新聞のコラムのようだ。
「これがどうしました?」
「まあ、読んで見てくれよ」
僕たち3人は一緒に1枚のプリントを覗き込んだ。
「若者の活字離れについて、ね。これがどうしたのかしら」
弥久先輩が読み上げる。
「どうもこうも無いだろ。これを読んで何か思うところは無いのか?」
僕たちは皆首をかしげ考えるが、答えは出ない。
「何かおかしなところでもありますかぁ?」
僕もおかしなところなんて見つけることができなかった。
「ふむ、まあ良い。若者の活字離れ、全然してなくないか」
皆越先輩はこの部室を見渡しながら堂々と言う。
「いやいや、あまりにも局所すぎるでしょ」
確かにこの一部分だけを見たならばそうかも知れない。
活字離れどころか、活字過多だ。
そんな言葉があるかどうか知らないが。
「冗談はさておいて……」
「あの、先輩。何が冗談だったんでしょうか……」
「そうだな、私がこの教室を見渡したところくらいか」
意味がわからん。
何が冗談だったのか。
「つまりだ。私が言いたいのは活字離れが進んで無いと思うんだ」
「つまりも何も、結局最初と言ってることは変わりませんけど。この部室を見て言ってるのだったら世界が狭すぎでしょ」
皆越先輩は人差し指を立て「チッチッチッ」と言いながら左右に振る。
ちょっと腹が立つが我慢した。
「お前はいつからこの狭い部屋の中のことだと錯覚していた」
「錯覚も何も先輩が……」
「私は、そんなこと一言も言ってないぞ」
え?あれ?
「理解できないって顔をしているな。私はこの部屋を見渡しただけで、口に出してはいない」
そんなことを言われればそうだった気がしないでもない。
「で、えっと、結局何が言いたいんですか?」
皆越先輩の考えがまるで読めない。
「よく見てみろここ。インターネットが普及したせいで本を読んだりする機会が減って、結果文字にあまり触れなくなった。って書いてあるだろ」
「何がおかしいんですか?」
特に間違って無いような気がする。
「全部おかしい。私は、ネットの普及で字を読む機会が増えたまであると思う」
「う〜ん。そう考えて見れば確かにそうかも知れませんねぇ。昔と比べると1日に処理する情報量が増えったってどこかで聞いたことありますし」
瑠璃は、皆越先輩の意見に賛成の意を示す。
「そうかしら。だってネットの記事を読むなら兎も角、最近は皆、動画ばっかり見てるわよ」
「じゃあ弥久いつも動画見てるような人はネットがなければ本読んだり新聞読んだりすると思うか」
「いいや、たしかに思わないわ」
「本が売れなくなったとかありますけど、今はそれ以外の情報入手手段もありますしね。だいたい、電子書籍だったら計算が別になったりするみたいですし」
今なら、ウェブ小説などもたくさんある。
本が売れなから、文字を読まなくなったと考えるのは違うのかもしれない。
本を買わなくても、何かを読むことができるようになったと考えるべきだろう。
「じゃあ、このコラムは間違ってるで良いな」
流石にそう言いきれるだけの情報が無いのでなんとも言えないが、僕が何か言うより前にその通りに書き込んでいた。
後から池田先生に呼び出されたらしいが、言い訳して逃れたらしい。
ちなみに、先生本人から愚痴られたのでそのことを知った。




