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ライトノベルじゃダメですか?  作者: 東雲もなか
つかの間の日常
163/216

162話 ビタースウィートじゃダメですか?

 いつもの文芸部部室。


 そこでは、瑠璃と皆越先輩、弥久先輩の声が聞こえていた。


「それで皆さんはどうだったんですか?」


 どうだったと聞かれてもなんのことを言っているのかがわからない。


「私は、まあ負けだろうな」


 皆越先輩は瑠璃が何を言っているのかわかったようで、答える。


「そういう瑠璃はどうなのよ」


 逆に聞き返す、弥久先輩。


 もしかしてこの場で分かっていないのは僕だけなのだろうか。


「あの、何を話してるんですか?」


「そんなに知りたいなら教えてあげましょう。私たちは誰が1番、泰にお金を払わせられる家勝負していたんですよ。どうです、これで理解できましたか?」


「お前ら……」


 僕は瑠璃を筆頭にみんなを睨みつける。


「そんなに睨まないでくださいよ。泰だってデートできて嬉しかったでしょ?あ、ちなみに私は800円でしたっ!」


 僕から言うのもなんだが、800円で何そんなに威張ってんだこいつ。


「私はあんまり気にしていなかったからな、そういえばゼロだったな」


 コンビニのジュースは鬼頭さんが出してくれたからそんな感じだ。


 ところで醤油味のメロンソーダ美味しそうに飲んでいたが、あれは本当に美味しかったのだろうか。


 1口もらっていた鬼頭さんはすぐにトイレに駆け込んでいたけど……


「私は……その」


 弥久先輩はこの間のレシートを取り出す。


 記念に欲しいとか言っていたからあげたが、今思えばこのためだったのか。


 当然といえば当然。昼ごはんも食べたのだから、金額は4桁に行っていた。


「ふむ、これなら弥久先輩の勝ちですね。それで聞いてくださいよ泰がゲーセンでぬいぐるみとってくれたんですよ。しかもたったワンプレイで。かっこよかったんですから」


 自慢げに巨大ぬいぐるみの写真を見せる瑠璃。


「ほう、これはすごいな。抱きついたら気持ち良さそうだ」


「そうなんですよ。すごいモフモフなんです。そしてその後エアーホッケーやったりプリクラ撮ったり楽しかったです」


 瑠璃はこの間撮ったプリクラを自慢していた。


「プリクラだっら私だって……」


 楽しそうに話す瑠璃を見て、恨めしそうな弥久先輩。


「私は、泰君と兄さんに会いに行ってきたぞ。まあ、ほとんど兄さんに泰君を取られちゃったがな」


 少しの寂しさを漂わせながらも、楽しそうに話す皆越先輩。


「それに、帰りがけ思い出の公園に2人で行けたしな。あの夕日は今まで見た中でも片手に入る綺麗さだった」


 皆越先輩の弾んだ声とは逆に、弥久先輩は沈んでいく。


「私用事思い出したから帰るね」


 そういうと片付けもそこそこに部屋を出ていく。


「はぁ……世話の焼けるやつめ」


 僕はため息をついて立ち上がる。


「僕も、用事があるので先に上がります」


 瑠璃はこういうのには割と敏感でいつもくっついてくるのにじっとしている。


 そして誰にも止められることなく部室を出た。




「弥久先輩!」


 弥久先輩にはそれほど急がなくてもすぐに追いついた。


 しかし呼びかけても無視をしてくる。


「先輩!どうしたんですか!」


 僕は先輩の進路を遮るようにして立つ。


「……だって、みんな楽しそうだったんだもん」


 まあ、だいたい予想と当たっていた。


「先輩だって楽しめたでしょ?」


「楽しめるわけないじゃん。だって泰は違う子が好きなんだよ!私の気持ち考えたことある⁉︎」


 ないわけではない。


 でも、本当にそれが彼女の気持ちと一緒なのかはわからない。


 いや、きっと違うだろう。


 人の気持ちを理解することなんて出来やしないのだから。


「ごめん、言いすぎた……」


「気にするなよ。と言っても無理かもしれないけど」


「私勝ったのになんでこんな気持ちなんだろう」


 勝ったとはさっき瑠璃が言っていた勝負のことなのだろう。


 そもそも瑠璃は、勝負など考えていなかったと思う。


 ただ自分が、一緒に僕と遊びたかっただけ。


 ついでに皆んなにも楽しんでもらおうとしたのかもしれない。


 つまり、本質は楽しんだもん勝ちの勝負だったのだ。


 弥久先輩はそのことにさっきやっと気づいて後悔しているのかもしれない。


 先に知っていたところで変わったとも思えないが。


「何も答えてあげられなくてすみません」


 僕が先輩の問いに答えることはできない。


 それは、別の意味をなしてしまう気がするから。


 弥久先輩もそれがよく分かっているはずだ。


「いいの。でもその代わり今だけ、そばにいて」



 僕たちは久しぶりに2人きりで学校から帰った。


 しかしそこに昔のような会話はなくあったのは、ほろ苦い静寂だけ。


 それは僕たちにはまだ早いビターな味わいだった。

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