151話 理知的じゃダメですか?
「これ以上追ってこないでー」
僕は逃げていく真由美を追いかけている。
なんだか追いかけているから逃げていくような気がしなくもないが、逃げるのだから仕方が無い。
「だからちょっと待てって言ってるでしょ先輩!」
「嫌だよ!だって私を取って食おうっていうんでしょ!もちろん性的な意味で!」
薄々嫌な予感がしていたが、やっぱりそれはあたっていたみたいだ。
ますます逃がすわけには行かなくなった。
それにしても面倒だ。
今は人が少ないから良いもの、賑わっているところに行けばこの誤解が広がって取り返しがつかないことになってしまう。
僕は兎も角として、弥久先輩ましてや皆越先輩が変なふうに思われてしまうのは避けなければ。
瑠璃は喜びそうなのでこの際どうでも良い。
「だから待ってって言ってるでしょ」
僕は、何とか部室棟内で真由美先輩に追いつき、肩を押さえることで逃げるのを止めた。
彼女はこちらを振り向くと、一気に息を吸い込んだ。
僕はとっさの判断で彼女の口を強く抑える。
抵抗して離れることが無いように、近くの壁に体を押し付けてもおく。
「んーーっ」
案の定何かしら叫ぼうとしていたらしい。
しかし、口元が抑えられているせいでそれはうめき声にしかならない。
しばらくすれば、おとなしくなったので注意しながら手を離してみる。
「へんt・・・んーーーっ」
少し油断があったのか抑えるのが遅くなってしまった。
「ちょ、黙って。だいたい僕は変態じゃ無いから。それにそんなことが知れ渡ったら、弥久先輩も困るでしょ」
僕はあくまで理知的に説得を試みる。
壁に押し付け、口を塞いでいたとしてもこれは止む終えない行為だ。
先輩は僕の理知的な説得でようやく少しは冷静になったようだ。
頭は動かせないので目で頷いてくれている。
僕はそれを信じて、今度こそ完全に手を離した。
「ぷはぁ、わっ私はあんたの言いなりになんてならないからね!」
「別に言いなりにさせる気なんてありませんよ。それより誤解してますって。僕たちは筋肉の話をしてたんですよ。しかも弥久先輩から言い出し」
「本当に?」
「ええ。なんなら確認しに戻っても良いですよ」
「わかった。信じることにする、パフェ1杯で」
「いや、だから広まったら損するのは弥久先輩なんですよ」
人の話を聞いていたのだろうか。
「でもあれでしょ。君のことだけ広めれば良いじゃない。弥久のことは隠したままで。ついでに泰くんは瑠璃さんとドロドロの関係です。なんてどう?」
「ぐっ、1杯だけですよ……」
「やったーー」
僕は家族に、おつかいできなさそうだということを連絡した。
「なーんだ。コーヒーハウスじゃん」
僕はバイトしている店に連れて行った。
ここなら、まあ多少安く済む。
「マスターこいつにこの店で1番安いパフェを……」
僕はカウンターに座って、ハードボイルドな声で注文した。
「なんかカッコつけてるとこ悪いんだけど、言ってることがチープでダサいね」
マスターが辛辣だった。
結局出てきたのはこの店で1番良いパフェ。
ボリュームが半端じゃ無い。
と言うより、こんなのメニューに無かったような気がする。
「そりゃそうだよ。だって特注品だもの。安心して泰くんにつけておくからね」
全然安心できないんですが、マスター。
「ちなみにいくらなんですか。その特注品とやらは」
マスターは人差し指を立てる。
「千円⁉」
高っ、と思ったがこの出来なら仕方なの無いのかもしれない。
押し売りされている時点で仕方はあるけども。
ただしマスターは呆れたように首を横に振っている。
「そんなわけ無いでしょ。君何ヶ月ここで働いてるの。だったらわかるでようちの品がどれくらいの料金設定なのか。これは1万だよ」
頭の血が引いて行くのがわかる。
あー今月のバイト代かなり減らされるなー
そんな心配をしていたのだが給料日当日、口座を見てみたら普段どおり振り込まれていたので、ただ僕をからかいたかっただけなのだろう。
冷静に考えてみれば、あの店の商品かなりリーズナブルだから、そんなにするはず無いな。




