143話 アンカーじゃダメですか?
いやいや受けてしまったリレーだったが改めて考えてみる。
これは絶好のチャンスなのでは無いかと。
知っての通り、僕は最近朝や放課後1人で練習をしていた。
元々別に運動が苦手ということもなく、他のクラスのメンバーも精鋭が揃っている。
ならば、これは勝てない勝負では無い。
今こそ皆越先輩にいいところを見せるチャンスだと思った。
入場門で並んでいる時、僕は意を決して皆に告げる。
「会長がなにか言っていたみたいだけど、やっぱり僕にアンカーをやらせてくれないか」
すると花子が、眉間にシワを寄せる。
「これはあなた1人の試合じゃ無いんだよ」
その言葉で僕は気づいた。
僕がどれほど自分勝手なことを言っているのかを。
私利私欲のために、順番を決めるなんて許されない。
「ごm・・・・・・」
過ちを認めようとした時、それを陸人が遮ってくる。
「おい花子、漢にはやらにゃならんことがあるんですぜ。これこそロマン。ワシもその端くれでやんすから、泰殿の気持ちはわかるんですわ。ここはちょっと、彼に最後任せてやってはくれませんかねぇ」
「そんなんで皆が納得すると思うの」
「まあ、男子共なら納得してくれると思いやすけどそれじゃ駄目っすよね。じゃ、こんなのどうでしょう。我らがもっとの力を出せる場面はどこでやしょう?命がかかっている時?いいや、違いやす。元来、漢とは好きなメスの前で最大の力を出すものです。彼なら、きっと我々の期待に答えられるだけの心、そして体が備わっている。もし信じられないなら1位以外だった時ワシを殴ってもらっても構いやせん」
陸人が冗談を言っているようには見えない。
その瞳には力強い炎が宿っており、本気で言っていることが簡単にわかる。
「わかったよ。好きにすれば」
納得はできていないようだったが、それを受け入れてくれた。
覚悟を決めた人の思いはそれほどに強いものなのだ。
「泰殿。頑張ってくだせぇ」
陸人は右手を出してくる。
握手だろうか。
僕も同じく右手を伸ばした。
すると陸人は力強く僕の拳を握ってくる。
それからは不思議な力がもらえる気がした。
僕も彼を称えるように力いっぱい握り返す。
それを感じ取った陸人は、ニヤリと暑苦しい笑顔になっていた。
「パンッ」
スターターの音で第一走者が勢いよく飛び出していく。
僕たちの2組は現在1位で、今もなお2位以下を引き離している。
そのまま、バトンは第二走者に恙無く渡る。
三番手を走るのは花子だった。
残念ながらバトンパスがうまく行かず、もたついている間に抜かれ離されてしまった。
必死に追いかけるも、その差を詰めることはできない。
彼女が遅いのでは無い。
敵が速いのだ。
それでも距離に開きが出ないところを見るとさすがと言った感じだろう。
次は、陸人にバトンが渡る。
彼は速かった。
陸上部も真っ青な顔をするレベルだ。
さすがは、陸上をするためにつけられたような名前なだけはある。
彼の前を走る選手も確かに速いのだが、その差はジリジリとながら詰まっていく。
これでアニ研だというのだから、驚きだ。
そして僕の番が回ってくる。
気になる2位との差はわずか数十センチ程度だ。
手を伸ばせば届くような距離まで詰まっている。
僕はルール通り、2レーン目に立って構える。
陸人が圏内に入ったのを確認してゆっくりと加速する。
後ろに手を伸ばすとタイミングよく強くバトンが手に押し当てられる感触が伝わる。
それを落とすまいと強く握り受け取る。
前との差は未だ変わらず。
僕は死にものぐるいでそれを追いかけた。




