137話 逃走しちゃダメですか?
体育祭練習期間の放課後。
僕と瑠璃は向かい合っていた。
「いい加減諦めたらどうだ」
瑠璃の額から汗が流れる。
「嫌です」
一向に引こうとしない瑠璃。
「どうしてそんな頑なに拒否するんだ、もう諦めたら良いじゃないか」
「有名なバスケの先生が言っていました。諦めそうになった時、もう一度立ち上がれるかどうかが天才と凡人の差異だって」
「なんか僕の知ってる、先生とちがう」
諦めたらそこで試合終了じゃないのか……
「はあ……もうわかったよ」
「ようやくわかってくれましたか」
瑠璃はさっきまで警戒していたのを僕の様子を見てやめた。
僕はそのすきを狙って瑠璃を捕まえようとした。
「馬鹿め!わかったのは、お前が力づくじゃないと練習にこないってことだよ」
「泰私を騙しましたね」
瑠璃は僕を間一髪のところで避けると、勢いそのままに教室を抜けて廊下を走り出す。
「騙してないし、もしそうだとしても騙される方が悪い」
「泰が、騙される側になってもそんなことが言えるんですか」
「そんときは、騙したやつが悪いに決まってるだろうが」
明らかにおかしなことを言っているのは気づいているが、別に瑠璃を追っかけてるだけなのでどうでも良い。
「泰がめちゃくちゃですーー!」
瑠璃は一足先に廊下の端までたどり着くと、角を曲がった。
その先には、上と下の階に行く階段がある。
つまり、このままだと振り切られてしまいそうだと言うことだ。
「やばいこのままじゃ」
僕は急いで曲がり角をまがる。
そして、上に行くか下に行くか迷うまでもなく立ち止まった。
瑠璃の気配がすでになかったとかでは無い。
むしろその逆で、曲がったすぐそこに瑠璃がバテて座り込んでいたからだ。
「ゼー、ゼー。わかりましたか……私の体力の無さを……こんなんで更に個人練習なんてできるわけ無いでしょ……」
「あ、いや、うん。……って、さっきあんなにダッシュできてただろ」
僕はさっきの瑠璃の走りを思い出す。
危うく騙されるところだった。
「チッ、だいたい作家に体力なんて要らないんですよ。私は指先の筋肉さえあれば生きていけるので」
「たとえ小説書くのに要らなかったとしても、生きていくために必要なんだよ。その体力が。わかったら早くそのたぬき座りをやめて立て」
「たぬきって、疲れてるのは本当ですよ。少しくらい休ませてください」
ふむ、なるほど。
「それは、休んだらちゃんと練習するってことだな。なんだかんだ言って瑠璃って素直だな〜」
瑠璃は、しまったという顔をしている。
「いやーこれは、言葉の綾ってやつで……だから、そのー」
言い訳をしようとしている瑠璃に追撃をする。
「なんだかんだ言いながらも努力する人っていよね。ねー瑠璃?」
これはかなり卑怯な手だと思ったが、もうやりたいようにさせてもらう。
彼女からは日頃から散々な目に合わされているのに、自分が馬鹿らしく思えた。
「くっ、痛いところをついてきましたね……」
瑠璃は苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「さっ、早く練習するぞ」
「……わかりましたよ。やれば良いんでしょ」
結局瑠璃はいやいやながらも、練習してくれるようだ。
何だかんだ言いながらも努力する瑠璃だった。




