129話 わからなくなっちゃダメですか?
皆越先輩が行ってしまって、しばらくしてから授業が始まった。
授業の間に、なにか仕返しをしてやろうと企んでいたのだが、実行は疎かプランすら思いつかなかった。
ずっと解散、集合で全力ダッシュを強いられて、それどころではなかった。
せめて行進とかにしてほしかった。
そんなこんなでなんの進展も獲れないまま、ただ疲れるだけで終わった。
「泰大丈夫ですか?」
来たときに座ってた場所で、今も休んで居ると瑠璃が話しかけてきた。
「まあ、なんとか」
遅れて朝の出来事を思い出す。
「・・・・・・っ」
瑠璃はその様子に気がついたのか首をかしげてくる。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも無い」
明らかになんでもなくないのだが、それで誤魔化す。
「私のこと、迷惑ですか?」
迷惑?なのだろうか。
普段は鬱陶しいと思っていたが、改めて考えてみると本当のことはわからない。
僕は瑠璃に首を横に振った。
「ふふ、泰は優しいですね」
瑠璃にから向けられた視線は柔らかいものなのに、なぜか心針が刺さったような痛みを覚える。
「そんなんじゃないよ」
そう。僕のこれは優しさんなんかじゃ無いのだ。
「そうですか……でも、優しさなんて受け取る人が勝手に決めることですからね。本人がどうおもっていようが関係無いんですよ」
「随分自分勝手な物言いだな」
自分勝手、でも僕のわがままとは少し違う気がする。
「ダメですか?」
「いいや、それで良いよ」
生唾を飲み覚悟を決めた表情になる。
「だからですよ。よく聞いてください。泰だってもっと自分のやりたいようにやれば良いんですよ。遠慮なんてしてたら、誰かに欲しい物全部持ってかれちゃいますよ。例えば私とかに」
「でも、いや、なんでも無い」
これは瑠璃に言うことでは無いだろう。
結局は自分で決めることだ。
「瑠璃は僕が振り向かなかったらどうする」
それはもちろん言葉通りの意味ではない。
恋とか愛とかそういうものだ。
声にした後で、自分は何を言っているのだろうと思う。
「そんなことあるわけ無いじゃないですか」
瑠璃の答えを聞いて、唖然とする。
「え?どういうこと?」
「そんな真に受けないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか。まあでもそうですね、もし私の思いが届かなかったとしても、それは仕方ないじゃないですか……」
瑠璃の声は震えて、気がつけば両目から1粒2粒と大粒の涙が溢れてきた。
その雫はやがて、一筋の流れとなって頬をつたる。
でも僕が、彼女に声をかけて上げることはできない。
今涙を拭って上げるということは、受け入れるということだから。
僕はその責任を取る覚悟はない。
全く、男ながらに女の子の涙1つ乾かせないとは情けない。
「頑張って、頑張ってそれでもダメだったら私はどうしたら良いんですか?諦める以外に選択肢があるんですか?」
前と同じ理由で僕は答えることができない。
そんなことない、とか言えれば違うのかもしれないが、そんな資格は無いだろう。
結局言おうと思った事も言えないまま林間学校は終わりを迎えた。
問題を解決するどころか、新たに増やす結果となって。
もうどうすれば良いのかわからない。
何もしなければ物語は停滞して、馴れ合いのぬるま湯で過ごして行けると思っていた。
でも実際は違って、何もしなくてもみんな勝手にどっかに言ってしまう。
それも皆バラバラな方向に。
変わらないものなんてなかったのだ。
僕も心の底ではわかっていたはずだ。
でも、それを受け入れるのにはもう少し掛かりそうだった。




