116話 突き放しちゃダメですか?
先輩の手に止められた僕は「どうして」とわかっていながら言った。
先輩は答えない。ただうつむいているだけだ。
「ごめん」
僕は流石に意地が悪かったなと罪悪感を覚え、謝罪する。
ただしそれに答える人はいなかった。
弥久先輩は何も言わないままときだけが過ぎていく。
僕が見たかったのはこんな花火じゃなかったはず。
もっと みんなで楽しく過ごしたかった。
「ゆたか……」
先輩が熱っぽい視線を送り、僕の手を頬につける。
熱いのは視線だけでなく、どうやら体ものようだった。
こういうときイケイケの陽キャならばうまく切り抜けることができたのだろう。
そうでない僕はただ動揺することしかできない。
ただでさえ近い距離を更に詰めてくる先輩。
彼女が呼吸する音までもが聞こえてくる。
「(近い……)」
僕は必死に顔をそむけようとした。
その先には花火ではなく互いのことを見つめ合うカップルが1組2組ではなく居る。
そこに居る僕たちの行動は何ら不自然ではないのかもしれない。
顔を戻せば先輩はまだ僕のことを見ていた。
僕の鼓動はお腹まで響いてくる花火の音よりも大きい気がした。
「私ね、やっぱり泰のことが大好き……」
先輩は、そう言うと僕に顔を近づける。
でも、ダメだ。それは、
僕はどうにか逃げ出すすべを探す。
その時、ポケットにいれておいたスマホから着信音大音量でなる。
つながらないのは承知だが、もしものときのために気付けるようにしておいたのだ。
それが、思わぬ形で役に立った。
僕は先輩を突き放して電話に出る。
先輩は不満そうだったが、構わないことにした。
「ゆたかー、やっと通じましたっ!」
出たのは瑠璃だった。
察するに、ずっとつながるまで試していたのだろう。
「じゃ、変わりますね」
瑠璃はそう言うと、近くにいるであろう誰かと変わる。
「あの、その。2人は集めたわよ。もう1人は見つかんなかったけど……」
加納の声だ。
「ちょっと聞いてる?そういうことだから、彼女たちは約束の場所まで送ったわよ。じゃあね」
ありがとうとお礼を言う前に、雑音がなりまた主が変わったことがわかる。
「いやー助かりました。人が多すぎて迷子になってましたので」
「勝手に走って行くからだろ」
「えへへ、そうでした。……あれ?もしかして弥久先輩そこにいますか?」
「え!?いないよ!!」
僕は思わず嘘をついてしまった。
別にいたからと言ってやましいことは無いはずなのに。
「そうですか。それは残念ですね」
「残念?」
言った後で失言に気づいた。
「あれ?探してたんですよね?」
「あー、そのこと……うんギリギリまで探してからそっちに行く」
「そうですか。待ってますよずっと」
変なところで鋭い瑠璃は気づいて居るのかもしれない。
が、今はそんなこと考えてるよりさっさと待ち合わせ場所まで向かった。




