111話 花火大会じゃダメですか?
今僕は、花火大会に来ていた。
祭囃子をかき消さんばかりの雑踏の中、ただ1人で立っている。
もちろん誰も一緒に来る人がいなかったとかそういう理由ではない。
そもそも、何時もの文芸部メンバーで来ていたのだ。
だが今はどうだろう。皆はぐれてしまっていた。
時は遡り数時間前。
僕たちは待ち合わせ場所である、会場近くの駅に来ていた。
「ゆたかー」
僕を見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってきた瑠璃。
「泰殿。今日も達者で何より」
この変な話し方をしているのが弥久先輩だ。
あれからというもの、どうもよそよそしい。
これでも大分ましになった方だ。
弥久先輩とはバイトで一緒なのだがその時はひどかった。
目は合わせてくれないし、マシンガンでも撃ってるのかってくらい同じ言葉を連呼していた。
今ではこの喋り方をすることにより何とか落ち着いているらしい。
「遅くなってすまないな」
最後にやってきたのは皆越先輩だった。
「まだ5分前ですし、別におそくなっていませんよ。安心してください」
「ならよかった」
「それじゃあ、みんな集まったことですし早く行きましょう!」
瑠璃が僕の袖を引っ張って走る。
だが浴衣に草履を履いているものだから当然と言うべきかずっこけた。
「おい大丈夫か」
僕は瑠璃を起こすために手をさしのべる。
「えへへ、転んじゃいました」
「転ぶって程生易しくなかったけどな。顔からいてたぞ。気を付けないと傷が残ったらどうするんだ」
ポカーンと何か考えている様子の瑠璃。
「そうですね……その時は泰にもらってもらうので大丈夫です」
「まったくなぁ……」
僕が頭を抱えていると、弥久先輩が瑠璃の隣でなぜか焦っているのを見つける。
それを見て僕はさらに深く頭を抱えた。
「なにをしてるんだ?花火見に行かないのか?」
こういう時は空気の読めない皆越先輩に助けられる。
後でかき氷でもおごってやろう。
まあおごられる必要もないかもしれないが。
会場にたどり着くと、まだ日も沈み切っていないというのにすでに人であふれかえっていた。
「私は全制覇してきます~」
着くなり変なテンションでどこか行こうとする瑠璃をひっ捕まえる。
「ったく、さっきこけたばかりで懲りないな。そうじゃなくてもこんな人込みではぐれたらもう会えなくなるだろう」
「大丈夫ですよ。私泰のケータイ知ってますし。それでは!」
油断して浴衣を放していたらそのすきに逃げられてしまった。
すぐに人混みに消えていったので、追いかけても無駄だろう。
「私は、先に場所取りしておくから回っておいていいぞ」
「ありがとうございます」
そして皆越先輩が行ってから気づいた。
僕と弥久先輩2人きりなことに。
「…………」
周りの賑わいからかけ離れて、僕たちは明らかにそこから浮いていたのだった。




