106話 皆越ゆかりじゃダメですか?
その日私は、ちょうど今日みたいな夜道を歩いていた。
辺りは暗く、気を付けていてもアスファルトの割れ目につまずいてしまい転びそうになる。
それも、小学校に入ったばっかりの少女だということもあるだろう。
新月だったのだが、だから暗かったというよりうつむいて歩いていたのが原因だと思う。
蒸し暑いのに、頬をつたるものだけが冷たく感じた。
私は幼いころ朝から晩までずっと勉強をさせられていたんだ。
もちろん家庭教師という名の見張り役までつけられて。
どうして私は休めないのに彼らは何人も入れ替わってるのだろうとよく思ったものだ。
親に逆らうこともできずに、私はそれに従うのみだった。
でも、いくら良い子をしていた私でも、いいや、だからこそかもしれない。
ため込んだ水を支えきれなくなり一気に決壊するダムのように、私の心には限界が来た。
そんなことで家を飛び出し、道を歩いていた。
通学は車だったし、それ以外は外にはほとんど出ない。
そもそもそんな時間も与えられてなかったがな。
だから私は、出てきたは良いものの道に迷い、怖くなった。
「どうしたんだい?」
そんな時声をかけてくれたのは、長身で短髪、爽やかな見た目をした人だった。
年なんかは気にしてなかったが、今から考えると高校生……くらいだったのか?
「ま”い”こ”に”な”ち”ゃた”の”」
誰かに会えたという安心感で私は我慢していたのが耐えられなくなり大泣きしてしまった。
申し訳なかったなと思う。
「そうなのか?俺に任せろ。な?」
正直その人も困っていたと思う。でもそんなところは一切見せずに私を安心させてくれた。
まあ、結果としては、たまたま点けっぱなしだった名札から、家は分かったのだが、それで終わりというわけでもなかった。
「なに?お家に帰りたくない?」
「うん……」
迷子になったとは言え、家が嫌になって出てきたのだ。
安心した今なら、その思いは再び強くなっていた。
私はうつむく。
このまま私は引っ張って家に帰されるのだろう。
そもそも、こんな幼い子が出歩いていい時間でないことくらいは分かっていた。
この人も、あのお手伝いさんのように私無理やり家に連れ戻すのだろう。
「そっか……」
でも違った。
「おにぃさん、は私を連れ返そうとはしないの?」
不思議に思った私は気づけば聞いていた。
「何で返さなきゃいけないんだ?私にそんな義務はないだろ。だいたい、本人が帰りたくないって言ってるのにわざわざ無理にとはしないよ。……あっ、流れ星」
その人は空を見上げ指をさす。
つられて私も同じ場所を見上げた。
そこにあったのは、満天の星空。
息を飲むとはこのことだったのかと初めて感じた。
「きれい……」
「だろ?」
その人はまるこの宇宙が自分のものだと言わんばかりの返答をしてきた。
それがおかしくて私はつい笑てしまう。
「そんな顔もできるんじゃん。うん、そっちの方がずっと良い」
その後も日付が変わるくらいまで話していた。
「おにぃさんの名前って何ていうの?」
「俺の名前?ヒカリっていうんだ。星のように人々を勇気づける光になるようにって願いが込められているらしい。まあ、私には似合わないな」
その人は何がおかしいのか分からないが笑っていた。
いいや、今に限ってではない。
あったときからずっと、その笑顔は私を優しく包み込んでくれていた。
そう言う意味では、星というよりは太陽のヒカリだったのかもしれないが。
「私は、ゆかりっていうの。そのまたお話しして。今度は私の家で。だめ……?」
「おう、わかったまた今度な!」
ちょうど私の家の門まで来ていたので、今日はそこでお別れとなった。




