104話 なかったことにしちゃダメですか?
「その、さっきはいきなり飛び出しちゃってごめん……」
何を話し出すかと思えば、そんなことだったのかと思う。
「えっと、もとはと言えば僕が悪いわけですし、すみませんでした」
しかし、このことだけを言うためだけに来たわけでもないだろう。
こんなのいくらでも言うタイミングはあるわけだし、なにせ普段の先輩なら謝ることなんてしないと思う。
ただ、ここでまた急かせばさっきの二の舞になってしまうので僕はただ待った。
それからしばらくして、また先輩は話しだした。
「あのね、泰……」
彼女は座ったままどこか遠くをみている。
顔を合わせないのはそのほうが話しやすいからなのだろうか。
僕は無言で話に耳を傾けている。
「……私、泰のことが好きかもしれない」
「はい……」
知っていた。
なんとなく分かってたんだ。
でも僕は。
「でも僕は……」
弥久先輩は僕の口を人差し指で閉じさせる。
「分かってる。でも言わないで」
先輩が聞きたくないという気持ちも痛いほどに分かる。
ただ、これを避けて通っても良いのだろうかと思う自分もいる。
告白し、振られる側も辛ければ、振る側にも辛さはあるのだ。
それは、相手からしたら比べるのも憚れる小さなものなのかもしれない。
しかし、やはりけじめというものはつけたい。
「あはは……ごめん、やっぱり聞かないとダメかな?私だって聞いてもらったんだもんね」
先輩の乾いた笑い方は聞いていてあまり心地の良いものではなかった。
「先輩って不器用ですね」
「それはあんたも同じことでしょ?」
知っていることだ。
その点では僕たちはお似合いなのかもしれない。
「そうですね。僕も不器用です。なのでここでの最適解を持ち合わせてないですし、どうすれば良いのかも思いつきません。そこで、答えは少し待っていてもらえますか」
これは逃げだ。
そんなことは分かっている。
しかもこの言い方だと、キープと思われても仕方ないのかもしれない。
でも違う。
僕は良い結果がほしいのではない。良い終わらせ方がほしいのだ。
そんなことを分かってくれたのかどうかはわからないが、うなずく先輩。
「それまでは今日のことはなかったことで……」
その言葉を口にすると、先輩は悲しむような困ったような複雑な表情になる。
僕はそれを見てしまったと思う。
なかったことするっていうのは、今日先輩が勇気を振り絞り告白したことがなくなるということだ。
僕がそのことに気づいた事に気づいたたのか、先輩はぎこちない作り笑顔で誤魔化していた。
「とにかく、僕たちはまたこれまで通りやっていきましょう。それが今は一番いいと思います」
それは、この居心地の良い空間を守りたいという2人の思いがあった為。
いいや、それは単純に僕のエゴだったのかもしれない……




