9話 寂しさを感じたらダメですか?
桜田弥久
休み明けの部室、私はいつも通り部室へ1番に来て今日も今日とてラノベを読んでいた。
文芸部の部員以外寄り付かないここは、私が唯一安心してラノベを読める安息の地となっている。
1人で本を読んで数分、部室の扉が「キーッ」と嫌な音を立てて開けられる。いつも私の次に来るのは泰なのだが、今日はゆかりが入ってきた。
「あれ?泰君はまだ来てないのか。そうか……」
入って来て第一声そう言うと共に悲しげな表情を見せる。
「何かあったの?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」
ゆかりは気にするなと言ったが、そう言われた方が気になってしまう。大方、泰と何かあったのだろう。今のところはこれ以上、詮索しないことにした。
静寂の時が流れる教室。それは、まるで時間が止まってると錯覚するほどだった。たまにページをめくった時の紙が擦れる音が現実感を与えてくれる。
数週間前まではこれが日常だったが、今はどうも落ち着かない。私とゆかりは普段、こんなに静かなわけではない。むしろ2人とも、おしゃべりは好きな方だ。しかし、本を読むときは別だ。その時はそれぞれ自分の世界に入り込んでしまう。だから少し前まではこれが通常運転で、心が落ち着く空気でもあった。
でも今は、胸の奥にどこか小さな隙間を感じてしまう。
雪本泰が入部したからというもの、それまで静かだった文芸部は一気に賑やかになった。私たちによく話しかけては、読書の邪魔をしてきた。煩わしさを感じていたが、今思えば私はあの空気を好きになっていたのかも知れない。
本棚で狭くなった部室を見渡す。この狭い部屋も、今は少しだけ広く感じる。
その後下校時刻まで活動したが、ついに私の前の席に彼が座ることがなかった。
1人で帰る通学路はやけに静かだった。いつも吠えている犬も今日ばかりはおとなしかった。暗くなってきた街並みにどこかさみしさを感じる。
「はぁ……(私はどうしちゃったんだろうな)」
ため息をつき初めに浮かんだのは泰の顔だった。そんな自分の思考に思わず赤面する。
「(別にあいつのことなんて)」そう自分に言い訳してみるも、得られるのは更なる羞恥だけだった。
春と言えど夕方の風はひんやりとしていて、火照った顔を冷ますのにはちょうど良かった。




