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二人の世界  作者: 降木 星矢
純白世界編
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純白の世界

「ふわぁ〜〜」

 一人の少女が大きな欠伸をこぼしながら起きあがった。

 人様にはとても見せられないようなだらしない格好をしているので少しは気にもするだろうと思ったが、少女は自身の格好など気にすることはなかった。

「うぅ…………」

 それよりかまだ寝たりないという様子で少女は目をこする。

「…………てか、ここどこ?」

 ここでようやく少女は自身が置かれている状況を理解する。

 この空間の中で少女以外の物は全て白で構成されていることにようやく気が付いたのだ。

 完全な真っ白な空間に、薄い茶色の髪をした肌白い少女一人。

 少女の見た目がいいことから、この光景を切り取ってたら何か芸術的作品になりそうではあるが、この状況は明らかに異質である。

 少女自身もどうしてここに自分がいるか分かっていないようだった。

「ま、いいや。まだ寝たりないから寝よう」

 そんな状況の中、少女は二度寝を初めてしまう。

 普通こんな空間に突然来たら焦りなり、ここに来る経緯を思いだしたりするものだが、少女は全くそんな様子はなかった。

 ただ眠気に負けるように瞼をおろす。

「スースー」

 …………少女は本当に二度寝を初めてしまった。

「――っ!こ、ここどこっ!?」

 このままでは何も物語が始まらない。かと思われたが、ここでようやくもう一つの声が響く。

 その声の主は少女から数十センチ離れた所で寝ていたようで、どうやら初めの少女は気づかなかったようだ。

 ……いや、普通は気づくんですけどね。

 後に起きた少女――呼び方が面倒くさいのでこれからは先に起きた少女をA子、後に起きてきた少女をB子とする――は、この白い空間にただただ驚きの表情を浮かべている。

 そう。A子がおかしかっただけで、普通の人ならばこういう反応をするものだ。

 そして当然のようにA子は隣で寝ているB子に気が付き、起こそうと体を揺さぶる。

「ね、ねぇ、ちょっと!」

「ん、んん〜……もうちょっと……」

 A子はいくら揺さぶられようが二度寝をやめようとはしない。

 こんな状況でよくここまでの二度寝が出来ると程々感服する。

 だがB子は決して揺さることをやめようとはしない。

 B子はB子でかなり強情な子のようだ。

「うぅ〜…………。もうちょっと寝たかったのに…………」

 やっとA子が起きてくれて、B子は一安心する。

「あなたこんな所でよくそんなに寝れるね」

 A子の様子を見てB子が呆れたように呟く。

 よく言ったB子と思わず褒めてしまいそうだ。

「……あなたは誰?」

 目をこすりながらもA子はようやくB子の存在を認識する。

「あ、あなたこそ誰なのよ?こんな所で寝てたんだからここについて知ってるんじゃないの?」

 こんな所であんなにも気持ちよさそうに眠っているA子を見たら思わずそんな思いを抱いてしまうが……残念だB子。A子はただ普通の人と感覚が違う人なだけなのだ。

「私はさっき起きたらここにいることに気づいたから、あんまり知らないよ〜」

「私だって今起きたばかりだから何も……」

 ここで二人の少女が黙り込む。

 どうやらA子も少しはこの状況のヤバさに気づいたようだ。

 ……なんて思っていたがそうでは無かったようだ。

「……スー、スー」

 A子はいつの間にか気持ちよさそうに寝息をたてていた。

「ちょ、ちょっと!どうして寝てるのよ!」

 B子は思わずA子の頭を叩いてしまう。

「ふわ〜……。だって眠たいんだもん……」

「眠たいって……」

 B子は思わず呆れるように声を漏らす。

 だってA子があまりにもこの不可解な現状に焦っていないから。

 でも、だからこそB子も少しは落ち着くことが出来ている。

 落ち着いたからといって、状況が変わるわけではないんだけど。

「それにしてもお腹すいたな〜」

 B子に起こされたA子は今度こそ目覚めたようで、お腹をさすりながら空腹を訴える。

「そんなこと言っても、こんなとこに食べ物なんてあるわけないじゃない……」

 悲しい顔をしながらB子は呟く。

 脳天気なA子の相手をしたせいか、B子もだんだんとお腹がすいてきたようだ。

 でもB子が言ったようにこんな所に食べ物なんてあるわけない。

 あるのはただ真っ白い床だけだ。

「う〜ん……ラーメンでも食べたいな〜」

 いや、朝からラーメンだなんて。

 B子も隣で若干引いている。


 カランッ。


「おっ。やった〜ラーメンだ」

「え?」

 B子が疑問の声をあげる中で、B子の隣でA子がズルズルと麺をすする音が響く。

「ちょ、ちょっとどうして!?」

 B子が驚いたように声をあげる。

 それもそうだ。だって何も無かったはずなのに今A子の手元にはラーメンが握られているのだから。

 しかし何より驚いたのはA子の適応能力だ。

 突然現れた正体もよく分からないラーメンをどうしてそんなに簡単に食べているんですか?普通は疑うべき場面ですよ?

 だが、今の少女達は目の前に出てきた食事に空腹が耐えられなかった。

「ちょ、ちょっと私にもちょうだいよ!」

 初めは警戒していたB子だったが、おいしそうにラーメンを食べるA子を見てすぐに自分も食べたくなったようだった。

「も〜、しょうがないな〜」

 A子は渋々といった様子でB子にラーメンをよそってあげる。

「はい、あ〜ん」

 麺をつかんだ箸をそのままB子の口へと持って行く。

「ちょ、ちょっと自分で食べるからいいって!」

「えぇ〜。もうすくっちゃったからいいでしょ〜」

 結局B子はA子の勢いにおされて、素直にA子から直接麺を口に運んでもらう。

「おいしい?」

 至近距離で言われてB子は思わず固まる。

 まるでつき合いたてのカップルのようで、ほんと御馳走様です。

「…………」

 B子はA子を見てぴたりと固まる。

「あっ」

 麺を口に入れる瞬間に固まってしまったので、B子の口から麺が一本たれ落ちる。

 しかしそれを見たA子はすぐさま自分の口を近づけて麺をキャッチする。

「もぉ〜もったいない」

 A子はそう言ってキャッチした麺をズルズルとすする。

 ここまででも十分百合百合しい展開なのですが、この少女達はこんなことでは終わりません。

「んっ」

 なんとその麺の半分は既にB子の口に入っていたもので、A子が吸い込むと同時にB子の口からするりと麺が飛び出てそのままA子の口へと吸い込まれていく。

「ん、おいしい」

 A子がおいしそうに食べているのを見て、B子は自分一人が気にするのは可笑しいと気づき、何食わぬ顔で二人でラーメンを食べ始めた。最初は朝からラーメンなどと引いていたことなどてんで忘れた様子で。


「「ごちそうさまでした」」

 やがて二人は汁までしっかり飲み干してラーメンを完食した。

 二人が御馳走様を言うと同時に、きっと全国の百合ファンの方が御馳走様と言ったでしょう。

 えぇ、きっとそうです。

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