残せるもの
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アレから一週間が経つ。
テレビがついにニュースを報道しなくなった。約一週間も報道してくれたという思うべきなのか、しかしこれは人々の不安を煽るのには十分すぎるだろう。
由紀も始めは少し同様していたが、次の日には一緒に一緒にゲームをしていた。
たくましくなったなと褒めるべきかなんというか…。
また、自衛隊がセーフティーエリアを確保し始めた。玄関を見たら階段に人が通った形跡が見られたので逃げたのだろう。非常階段は密室で音の反響も酷く不安しかなかったので勝手に封鎖させてもらった。
「お兄ちゃんなにしてるのー?」
「んー、ベランダにトラップ作ってるー」
「なんか、1番警戒してるよねーそこ。」
「まぁこの家の弱点だしなぁ、去年家のドアの鍵も厳重な奴になったばっかだし、それを考えれば玄関はかなり信頼できるはず。」
ある程度用意をしてから、いつもの弓と矢の作り方を始める。
何回も作っては家の中で試し打ちしての繰り返しているが、以前うまく行かない。
竹刀の竹やツルを使ってるかなだめなのか…。
一応刺せる程度には作れたので目潰しや足に打って足止めくらいにはなってくれればいいなーと言った具合だ。
「お兄ちゃん見てみて!」
「ん?ってそれどこにあった?」
「お父さんの机の後ろから見つけた!」
由紀は嬉しそうに鉈を持ってきた。
あの人なんでこんなもの隠してたんだよ。
だがまぁ、使えるものは使わせてもらおう。
そして更に一週間が過ぎた。
夕飯を作っているとベランダからザクザクと敷いておいた砂利を踏む音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、なんかいる!」
「由紀は隠れてろ」
由紀を部屋に隠れさせ、和室の窓からベランダを覗くと2つ隣の部屋のおっさんが手足を血まみれにしながら包丁を持って立っていた。
おそらく有刺鉄線もどきを掴んで怪我したのだろう。
「おい!いるんだろ!!開けろ!!食い物よこせ!おい!」
ついにで始めたか…。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
由紀はひょこっと顔を出して心配そうに俺に小声で問いかける。
「大丈夫!そのための武器だってあるだろ?」
和室のベランダを勢いよく開け木刀の短刀でオヤジの手首を叩き包丁を離させた。
「っ!!てめぇ!!この野郎!!」
不意にオッさんの拳が当たってしまい、怯んでしまい、俺は首を締められベランダのフェンスに追いやられてしまった。
「はぁ…はぁ…持ってるんだろ?いつもいい匂いさせてるもんな!なぁ!よこせよ!食い物!!」
「自衛隊の……ぐっ……セーフティー……エリア…に…行けば……いいだろ…」
「行ったけどどこも人でいっぱいだ!!道だって乗り捨てられた車で行き帰りするだけでも一日終わっちまう!!」
1ヶ月もすればこういう輩も出るとは思っていたが、想像以上に早いな…。
「へへへ、安心しろよ、女はちゃんと生かしといてやるからさ、な?ぐわぁっ!!」
オッさんの臭い息と気持ち悪いセリフを耐えていると、急に親父の頭から大量の血が流れ出した。
「へ?血…俺の?痛いぃぃぃ痛いぃ!!」
「はぁ…はぁ……お兄ちゃんから離れろ!!」
後ろを見ると由紀が例の鉈で親父の頭をためらいなく掻っ捌いていた。
助かった…。
俺も慌て出す親父の隙を見て抜け出し、由紀と共にオッさんをフェンスから突き落とした。
叫ぶ親父の声に奴等も反応して、集まってくる。南無三…。
「あ、ありがとうな。助かったわ」
「はぁ…はぁ…由紀、人殺しちゃったのかな…」
由紀は血のついた鉈を見て怯えている。そりゃ無理もない。鉈で人を攻撃してこうならないのはアニメのキャラくらいだ。
俺は由紀の頭を撫で、
「お前じゃないよ。俺が殺したんだ。だから気にするな」
大丈夫、お前は悪くないなんて言っても慰めにもならないのはわかっているが、
バカな俺にはこれくらいしか言葉が思いつかなかった。
ベランダを更に強化してその日はゆるいゲームをして過ごした。
翌日起きると由紀が蹲踞の姿勢で素振りをしていた。
「お前なにやってんの。」
「久しぶりにね!一年半ぶりくらいだけど、まだまだ私の筋肉衰えてないわ!」
昨日のことがあったからだろうか、由紀が身体を以前のように鍛え始めた。
「俺もやるから少し開けてくれ。」
「おぉ?三年ぶりくらいじゃない?大丈夫?」
「元剣道部部長さんに言われると痛いな…。まぁ久しぶりだから軽くやるよ」
俺も見習わないとな…
もうあんな思いさせたくないし、
少なくとも命がけで守れる程度には強くなりたいもんな…。
▼△▼△▼△
案の定あのおっさんは見事に奴等の仲間入りをしていた。脳から見えちゃいけないものまで見えてなんかグロい…。
あのおっさんはやたらと呪い動きをしている。死んでからと生きたままってのがもしかして奴等の種類のポイントになるのか…?
ベランダのフェンスはとりあえず、ローションまみれにしておいた。
というのもなんか、思いつかなかったからだ。
「お兄ちゃん、そのフライパンどったの?」
「あー、こないだ拾ってきた!これかなり高いやつなんだけど、せっかくだからな!」
「ほぉ、あとで使わせて?」
「いいけど、なに作るんだ?」
「ホット・ケーキ!!」
「あーね、ならもう開くからいいお!」
「はいはーい」
俺はリビングのテーブルに砥石を置き、料理用と戦闘用の放置を研ぎ直した。
テレビはどのチャンネルにしても砂嵐のままなので、デスニーやら西映のDVDをつけてなるべく音は小さくしてBGMがわりにしている。
でも、これができるのもあと1〜2週間ほどだろうか。外を見てわかるように、奴等の数は日に日に増えていっている。
それに奴等の肉が必ず腐ってくれるとも限らない。何かのウイルスでこうなってるのか、わからないことだらけの今俺らがやるべきことは今のところ、家に篭っていることくらいだろう…。
あー、やだなぁ。外でたら世紀末みたいになっててヤンキーとか元軍人さんとかばっかになってて『力ある者が正義!』みたいになってたら。
「お兄ちゃーん、焼けたけど食べるー?」
「いただきまーす!」
まぁ、その時はその時か…
とりあえず今はここを出て行くことになった時のために備えておこう。
「さっきからなにぶつぶついってるの?キモいよ?」
「妹さん、言葉が鋭いよ?研いだ?」
「何言ってんだか」
由紀の言葉は今日もいい切れ味していらっしゃいますな。
父さん母さん、ぼくたち今日も元気にです。
「……どう?おいしい?」
「まぁお前はまともに作れば人並みには美味いからな。いつもアレンジしようとするからゲテモノになるんだよ。」
「うっ…うるさい!いいじゃん!こないだの納豆バターマカロニサラダはたしかに失敗だったけど、その前の玉ねぎシャーベット……もアレだったけど……」
「そうだぞ。玉ねぎシャーベットってあれ、砂糖とすりおろした玉ねぎ混ぜて凍らせたのを更に砕いただけじゃねぇかよ。しかもそれハンバーグに変更したの俺だし」
「うざっ!」
「まぁ、これは美味いよ。うん。」
はやくも1ヶ月が経とうとしているのに、こんな他愛もない話をできるのも恐らくはテレビやゲームと言った娯楽があるからなのだろう。常人が同じ場所になにも娯楽などなく、ずっと篭っているのは耐えられないと何処かで聞いたことがある。まぁお陰で、由紀も俺も花札やら麻雀やらからさまざまな遊びをやりつくしてしまった。
基本ゲームはあまり好きではない由紀が俺に気を使ってからゲームを聞いてきた時は目を疑ったが、お陰でお互い話す話題も増え、俺も韓流ドラマを見るようになった。
「ったく、一言二言多いんだよなぁ…」
「悪いな、今度は俺がなんか作るか」
「あー、そうやってお兄ちゃんが何でもかんでも美味しく作るから女子的に大丈夫なのかなーって思っちゃうんだよ!」
「まぁまぁ、運動や武道はお前、料理や裁縫は俺。いつもそんな感じだったろ?せっかくだし、お得意のクッキーとプリンと卵焼きの作り方教えてやるよ」
「本当!?やるやる!」
いつ俺が死ぬかもわからないからせめて、由紀には色々残しておいてやりたい。
話している間に俺はそんなことを考えてしまっていた。
「でも、なんでその3つなの?」
「言ったろ?得意だからだ。」
「ふーん」
こいつは忘れているかもしれないけど、こんなことになる前、由紀に俺の料理で好きなものは何かを聞いたことがあった。
その時真っ先に出たのがこの3つなのだ。
だから、その日から俺はこの3つは特に力を入れて作るようにしていた。
「んじゃ、クッキー→プリン→卵焼きの順番で作るぞ?」
「なんで?」
「まぁ、クッキーは寝かさないといけないからな。」
「ふーん」
こうやってこの家で平和に立て籠もって居られる間だけ。このうちに俺は由紀に残せるものを少しづつ増やしていこう。
ずっと悩んでいたこれからの予定に、気がつけばまた一つ希望とは違うかもしれないが、目標ができた。




