マンション開拓③
30分ほど3人を待っていると外から騒ぎ声が聞こえて来た。
「おーい!龍二!康太!どこ行ったー!」
「おーーい!」
おそらくあの二人の仲間だろうか。あの二人が帰ってこないから探し始めたらしい。あの声の大きさからして多分屋上にいる3人にも聞こえているだろう。
「どっかに逃げといた方が良さそうだな…」
「隠れる?」
「いや、この部屋にとかすぐ見つかりそうじゃん。靴回収して来たからベランダに行って下に降りよ」
「おけまる!」
下のフロアのベランダに逃げて大和達にはそれをメールで伝えておいた。
大和達からは了解とだけ返信が来て外からの声が落ち着くまでしばらく待機するとしよう。
「なぁ、ナッさんあの二人って落としたんじゃないの?」
「いや、ピアノ線で首とドアノブ繋いで、非常階段に置いてきた。一応首刺したから大丈夫だとは思うけど、もしあの非常階段の中が、本当にゾンビだらけなら上の階に呼び寄せられないかなとか言ってたよ」
なるほど、なかなかえげつないというかなんというか……。
まぁ確かに匂いに反応するのかは試してなかったのでいい機会ではあるな。
ベランダにまで奴らの声は聞こえてきていたが、どうやらもう戻ったらしい。もといた部屋に戻ると大和達もすでに戻っていた。
「おつかれ。どうだった?」
「やばいかも。」
そう言って大和は無音カメラで撮ったのだろうか。写真を数枚見せてくれた。ってか、よくあの状況で写真撮れたな。
1枚目は…
「なんで自撮り?」
「いや、初めて自撮り棒使ったからさ。試し撮り」
ものすごい笑顔なんだけど、背景にゾンビがちらほら居るからめっちゃ違和感あるぞ…。
呆れながらも二枚三枚と見ていき、
写真は計5枚。そして、さっきの騒いでいた連中の声からして多くても4〜5人程度だ。こちらは由紀と友ちゃんを抜いても9人。
さて、どうしたもんか……。
「いっそ燃やすか……。」
「なに物騒なこと言ってんだよ…できてもベランダ燃やすくらいだろ。」
「ベランダに火をつけて慌ててるうちに突入。あとは当たって砕ける?」
「砕けたらだめでしよ…」
各々案を出し合うが、一向にまとまらない。
そもそもだが、みんな殺すこと前提で話あっているが、本当に殺す必要あるのか?
いや、まぁあいつらの仲間殺しちゃったから殺されても文句は言えないわけだけど…。
「なぁ…俺とりあえず、話に行ってみるわ」
意を決して、みんなに告げる。
四方からは「やめとけ」「流石にそれはやばい」など声が上がるが、そもそもこちら襲われたから襲ったのだ。話のわかる人なら…。
「話してどうするつもり?」
「今後このマンションで協力していくか対立するかだろ…。最悪出て行こうかと思ってはいる。」
「本気…?」
現状、階段も完全に封鎖してはいるし、入ってくる人はそうそう居ないだろう。しかし、いつまでも立てこもり続けるわけにもいかない。食料にも限界はあるし、それならば田舎の方へ逃げ込むのも一つの手だろう。
「とりあえず、俺行ってくるわ」
左手をバンダナで首からさげ、立ち上がる。
すると、篤紀と勝樹も立ち上がった。
「一人はさすがにやめとけよ。」
「俺も行くわ。そもそも話し合いならザキ1番向かなそうだし。」
「……あ、ありがとう」
思わず映画のワンシーンかのような現状に感動をしてしまった。大和は電話で由紀と友ちゃん以外のメンバーを呼び、9階に着いたらベランダから登ってきてもらうよう指示を出した。
俺らが入ってから30分なにもなかった場合、また、中から暴れる音があった場合は即突入してもらうことになっている。
「んじゃ…いくよ?」
「はよ押せよ」
チャイムを押し、インターホンから威圧するような声が聞こえてくる。
「下の階のものです。」
「……」
返事はなく、しばらく待つと鍵の外される音がした。
「……入れ」
中から出てきたのはいかにもオラついた感じの20〜25くらいの男の人だった。
もともとこういう人得意じゃないんだよなぁ…。すげぇ怖い。
部屋に入ると、全扉は締め切られており、時折左の部屋からうなり声と暴れる音がする。
リビングに行くと、テーブルの上には物が散乱ており、和室には他の部屋から取ってきたであろう服や、食料、工具が置かれていた。
白いジャージにサングラスをつけ、オールバックの人が個々の指揮を取っているらしい。
その人が奥に座り、周りに他の人が座っている。といっても予想通り4人だけだが。
「おう。お前ら、二階にいた連中か。」
「はい。そうです。」
物怖じしない性格の勝樹が軽い感じで対応する。
「んで?何しにきたんだよ」
リーダーと思われる男はめちゃめちゃ睨みながら、話を進めてくる。正直怖い。これならゾンビの方がマシだ!!
「あ、いや、自分たちの他にどのくらいの人がこのマンションにいるのか。それを確認しにきました」
篤紀が少し上ずった声で答えた。
「…。んでよ、お前ら龍二と康太になんかしたん?おい」
体を前にかがめさらに睨みを効かせる。
「なんかいえよ、聞いてんだろ?」
隣に座っている金髪の男がさらに追求してくる。なんだここは!ヤンキーの溜まり場か!?陰キャな俺には地獄だぞ!?
黙っていると、勝樹が俺の左手を掴み上に持ち上げる。
「仲間があの二人にあって早々襲われたので撃退しました。」
「なんだと!?」
「ぶっ殺す!!」
「この野郎!!」
3人はそれぞれ俺らに襲いかかろうとするが、リーダーと思われる男はそれを許さなかった。
「待て!今こんなんだろ。襲ってやられたなら文句言えねぇよ。しかし、こっちとしてもやられっぱなしってわけにもいかねぇ。
お前ら、なんで来た?」
「別に。ただ挨拶ですよ。お互いがお互いを襲うとか嫌ですから。」
「ほぉ…、でも既にそっちはこっちの仲間殺したんだよな?んじゃ今ここでお前らのうち2人殺されても文句言えねぇだろ?違うか?」
「まぁそうっすけど、そっちが先に手を出して来たっての忘れないでくださいね?」
張り詰める空気。睨みを効かせるお兄さん達。正直もう帰りたい。
「あの…」
「あぁ?」
「見ての通り俺そっちの人に腕こんなにされたんすよ。しかもこっちのやつも見ての通りで。ぶっ殺しちゃったのは謝りますけど、あんまり揉めて痛くないんですよ。こっちとしても…。」
「あぁ?龍二達殺しといてなんだよその態度!!」
「やめろ!…食料半分。それでどうだ?」
意を決して発言してみたが、やっぱ怖いよ!!
にしても、食料半分ねぇ…。和室にはかなり食料もあるようだし、そんなに困ってないよな?あれか?俺らにくれるのかな?
「無理っすね。こっちも人は多いんで」
「んじゃ交渉決裂だな」
おいバカ!と勝樹が俺の脇腹を突っつく。
大和達が入ってくるのにはまだまだ時間はある。どうにか、時間を稼がにゃ…
「…仮にそうだとしてどうするつもりです?」
「お前らのうち2人を殺す。今回はそれで許す。悪くねぇだろ。人が減れば食料の問題も特になくなる。」
その程で行くとそちらも得してますけどいかがなんでしょうか!?
「ん?ってことはあの2人が減ってそちらとしてもラッキーだったんじゃないですか?」
全く同じことを勝樹はすんなりと言った。
ほんとすごいわこの人。
「なんだと!!」
立ち上がる3人。その時だ、玄関の方の部屋から何か荷物が落ちるような音がした。
「……ちょっと待ってろ。お前らも手出すなよ?」
なんだろう。男は皿と缶詰を持って部屋にのそのそと歩いて行った。
「あの、だれかいるんですか?」
「辰雄くんの妹ちゃんだよ…」
妹がいたのか。
「待たせたな。」
戻ってきたリーダー辰雄さんは少し悲しそうな顔をしている。なんだ?
「いえ、妹さん怪我でもしたんですか?救急道具なら腐る程あるんで分けますよ?」
「いや、暦は怪我や風邪じゃねぇ…ってか、なんで知ってんだよ」
「そこの赤い髪の人が教えてくれました。」
指を指すと赤い髪の人は、えっ!?と声を上げてごめんごめんと辰雄さんに謝る。
「このおしゃべり…。」
「俺も妹いるんで、何か力になれることあれば…」
「いや…。いい。しかし、そうかお前も妹いるんだな。もういい。お前ら帰れ。今回は見逃してやる。安心しろ、こっちから手を出すこともないし、そっちから手を出されない限り何もしない。」
「え?!辰雄くん!?」
「龍二たちやられたんだぞ!?」
「返すのかよ!?」
おや?いきなりの急展開に少し戸惑ったが、
その後何かされるわけでもなく、部屋出ることができ、大和たちも意外そうな顔をして自分たちの部屋に戻った。
部屋を出る際、例の部屋の前には可愛く木で作られた名札が扉に飾られていて「こよみ♪」と書かれていた。部屋に置かれるタオルなどもキュアキュアしたキャラクターが書かれていたものが多く、小学生か幼稚園くらいの子なのだろうか。
気になることは山のようにあるが、その日は部屋に戻った。
余談だが、家に帰ると由紀が俺の腕をみてとても驚いた表情でどうしたのか、何があったのかと質問責めにされた。
訳を話すと、悲しそうにバカと言われ部屋にこもってしまい、散々謝るはめに…。
クソ!あいつらめ!ってもう死んでたわ…。