架空のオフレポ その2
本当にあった怖いオフレポ
思えばその日は朝から上手くいかなかった。
オフレポといえば聞こえはいいが、これはちょっとしたホラーかもしれない。注意して読んで欲しい。
日付は先月の某日。レポまで間が空いてしまったが、これは心の区切りがつけられなかったからだ。それだけ物凄く衝撃的な出来事だった。集合は尾触歩駅前のマクドナルド。多少遅れる人が出ても大丈夫なよう、各自集まった順に注文を入れて、全員が集まるのを待つ形にした。
はじめに来たのはタナカ氏で、いや正確に言えば一番初めに着いたのは俺だったわけだが、とにかくタナカ氏はその日初めて会ったオフ面子だった。タナカ氏は開口一番「おwwwこる氏wwwwwこる氏ですなwwwwww」と満面の笑みで手を振りながらカウンターへ向かって消えていった。注文してから来れば良かったのにと思いながら、わざわざ二階に陣取っている自分の意地悪さに苦笑した。
遅れたが、今回の面子はこうだ。こるコーこと俺、タナカ、黒姫、リキティ、へーちゃん、モース。残念ながら一番会ってみたかった小パンさんは都合が付かないとのことだった。
タナカ氏に続いてやってきたのは黒姫さんだった。どうやらへーちゃんさんとはリア友らしく、たまに本名で呼びそうになっていたがご愛嬌というものだろう。ここはあくまでクローバーホールドなりきり掲示板の集まりなのだから、あまりリアルのことを言及するのは野暮天だ。黒姫さんとへーちゃんさんは普段のロールからは想像もつかないほど穏やかで普通の人だった。こんな人が月を握りつぶすとか書いているとは思えない。
モース氏は別件で昼食まで拘束されるということで、次の目的地で現地集合ということに。
タナカ氏、酒が入ってるのかと思うほど絶好調で、何故か口うるさくファンタジー世界を舞台にアメリカと日本からやってきた異世界裁判官を使ってアメリカと日本の法制度の違いを描く本格社会派ファンタジーを書くぞ、と構想を語っていたが、公務執行妨害を軽犯罪だと思い込んでいるっぽいので黙って聞いていた。
やっとリキティさんが登場し、フライドポテトのLを三つ食い尽くしたタナカ氏の速度に合わせて目的のカラオケへ移動。これは防音がしっかりしているので、絶好の萌え語りポイントとして黒姫さんが強烈にプッシュした。302との部屋番号をモース氏に伝えると、部屋に入るなりへーちゃんさんがキャラ萌え絶叫をくりだした。
なんでもモース氏の演じる超ハードボイルド事務官キャラにご執心のようで、今度許可をもらって同人誌を作るんだとまで豪語していた。
タナカ氏はタナカ氏で中学生のエアガン紹介botの物真似が似すぎで俺とリキティさんは声が既に枯れつつあった。黒姫さんが歌う中、なにやら外がにぎやか(カラオケルームからでも分かるほど)なことに気づく。
窓から外を見てみれば、黒山の人だかりが。「火事?」と不安がるへーちゃんさん。俺とタナカ氏の二人で様子を見に行くことに。答えはすぐに分かった。ヤクザのかちこみめいた、ダークスーツに身を包んだ屈強なグラサンアメリカンたちがどかどかと階段を上ってくる。彼らに続いてやってきたのはカウンターにいたバイトの子だった。笑顔が引きつりすぎて発声に支障をきたしている。
「おっ店員さん何よーどうしたんですー?」「お前凄いな」すっかり打ち解けていた俺はいかついメリケンにフレンドリーかつ日本語で問いかけるタナカ氏に突っ込む。メリケン、終始無言。手にはジュラルミンのケースを持っている。あれ、これもしかして、と気づく俺。
予想は的中だった。遅れて階段を登ってきたのは、某国大統領だった。「マジかよ!すげー激似じゃん!あれモース氏かな?」タナカ、死の恐怖を感じない模様。写メろーとかいって突撃し、SPから腕を捻り上げられていた。「オー、オーマイ!マイガッ!」余裕がありそうな苦しみ方だったので放置。大統領がサッと手を上げると、SPたちはタナカ氏からすばやく離れた。大統領「~~!!」なにやら早口でまくし立ててきたが、聞き取れず。「遅れてしまってすまない、私がモースだ」「あ、ども」隣に同時通訳の人が居た。「さて、今日の会場はここでよかったかな」「そうっすね。モースさんで最後です」「うわ、すげ!マジか~うわー大統領じゃんこれ!星条旗歌っちゃうかなーアメリカーサノバビッチ」タナカ氏、テンションがまだエアガン紹介botだった。アメリカっぽさが全然出ていない。「それも悪くないが、あいにく星条旗は聞き飽きている。君たちのキャラ語りが聞きたくてここまでやってきたんだ」「じゃあ、どうぞ。部屋狭いっすけど」「問題ない。私の都合で申し訳ないが、少々大所帯で来過ぎてしまったようだ。別の部屋を取ってあるから、そちらへ行こう」「あっはい」との旨を伝えると、黒姫さんは驚きのあまり泣いてた。へーちゃんさんは先に友人が取り乱したせいか、冷静だった。リキティさんは緊張しきりで、「うっす」「はいっす」しか言えなくなっていた。別の部屋と言っていたが、どうもモース氏が取ったのは某ホテルの最高級のスイートルームのようだった。移動中も屈強な男たちに囲まれ、俺たちは基本無言だった。モース氏は気前がいいというか性格が掲示板で会話してる時と同じで、ムードメーカー的言動が目立ったが、こんな状況で笑えるか。ただタナカ氏だけはすっかり打ち解けていた。「ヘイモース、例のロールはナムの教訓を暗示してる?」「鋭い質問だ。そう、一部国民は敗戦とは思っていないが、それを敗戦と思う国民もいる。そういう精神性の矛盾だね」「なるほど~新作の参考になりますわ」「ところで、最近の調子はどうだ?」「ドル預金で大損こきましたわ」「HAHAHA!まあそういうこともある!」こいつ大物なんじゃないか。
後はあんまり覚えてない。モース氏のキャラの話になった途端黒姫さんとへーちゃんさんが活性化したくらいで、リキティさんと俺はそそくさと退散してしまった。駅に向かう途中の居酒屋にふらっと立ち入って、サシで飲んだ。リキティさん、あんまりロールで絡んだことなかったけど、凄くいい人だった。その後家に帰ったところで、携帯にメールが入った。大統領とタナカ氏のツーショットだった。背景には……これ、国旗が二つ並んでるんだけど。