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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
明姫の輿入れ
8/29

 次の日、朝日が差し込んでくる。今日もいい天気だ。風も弱く、外で遊ぶとしたら最高だろう、夏菜はそう思い伸びをした。

「霊は、出て行ったでしょうか?」

「ええ、たぶん、出て行ったわ」

 明姫があいまいに答える。

「もし、霊が出て行かなかったら、明姫を危険にさらしかねないわ、試験が終わったら、視える人に払ってもらいますわ」

「ええ、そうして」

 明姫も割と真剣にそう言った。


   〇 ◎ 〇


 試験の前、御局に会いに行った。

「失礼します、明姫と侍女です」

「入りなさい」

 御局は、美しい四十代の女性と聞いていたが、その姿は、まだ、若いように見えて、美容にとても気を使っている様だった。

「何の用かしら」

 見た目から、気難しそうな雰囲気がしているので、慎重にあいさつをした。

「神月国から、参りました。神楽明姫と申します。ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」

「どれ」

 明姫の顔をぐいっとつかんだ。

「まあ、まあ、いい子じゃない、まあ、顔は9点ね、他にもいろいろできるだろうね? 役立たずは、いらないよ」

「は、はい」

 明姫は、緊張した様子で返事した。

「あの、もしよろしければ、舞と琴を聞いてくださいませんか?」

 夏菜が、笑顔で御局に言うと。

「そうだね、宴で一曲披露してもらおうかしら」

「宴で!」

 宴で、一曲弾くと言う事は、客をもてなしできる位の完成度が必要なのである。つまり、失敗はできない。

「不満があるのかい?」

「いいえ、やらせていただきます」

 明姫が強くそう言った。夏菜は、正直、明姫の心配よりも、舞の時、自分が曲を間違えないか不安になっていた。

 二人で、御局の部屋から下がった。

「あの人は、私を試したのね」

「そのようですね」

 夏菜は、御局がいじわるするのも仕方ないと思っていた。だが、良く考えるとこれは、いじわるなのだろうか? もし成功したら、明姫の株は上がる。

(もしかして、御局は、それを狙って?)

 そんなわけが無いと思いつつ、少しそうだと思った。

 その後、明姫に少し一人になりたいと言われて、夏菜は、一人歩いていた。

「この木、登ったら楽しいだろうな」

 庭にある一本の大きな木を見てそう思っていた。

「あれ~? 侍女ちゃん」

 木の方から声がする。

「あ、あなたは、蓮アドルフ、二度と会うまいと思っていたのに」

 木の方を見上げてそう言った。

「とっても、見晴らしが良いんだよ~っと、今、そっち行くね」

 するすると木から降りてくる。

「何の用よ、こちらには、あなたに用事など一つだってありはしないんだから、できれば、声をかけないで下さらない」

「ひっどいな~、俺としては、君のこと気に入っているのに」

「気に入られたくないです」

 案の定、横に降りてきて、アドルフは、夏菜の頭に桃色の花を一輪刺した。

「うん、似合う、かわいい」

「えっ、えっ……」

 夏菜は、とても動揺した。今まで、夏菜をかわいいと真正面から言って来た人などいなかったからだ。

「あなたの目、悪いんじゃないかしら?」

「えっ? なんで」

「私が、かわいいわけがないでしょう」

「そうかな? 女の子はかわいい生き物だよ、君なんて、背が低くて、なんか、こうギュッと抱きしめたくなる感じ」

 アドルフが手の動きで抱きしめるしぐさをしたので、夏菜は、離れた。

「大丈夫、ギュッとしないから」

「信じられません」

 夏菜は、怒って、走って行った。

(か、かわいい、ギュッと抱きしめたくなる……)

 思い出すだけで、顔のほてりが止まらない。

(あんな、軽そうな男が言った言葉に意味なんてないわ、私をからかって喜んでいるだけなのよ)

 頬を抑えて歩いていると、明姫が来た。

「夏菜? だれかに頬を叩かれたの? さっきから、抑えて歩いているし、少し赤い気がするわ」

「ち、違うの、すこしですね……」

「誰かに、口説かれたの?」

「違います。かわいいって言われて……」

「な~んだ、それだけ? 夏菜は、かわいいよ、みんなそう思っているけど言わないだけだと思うよ」

「そ、そうですか?」

(私が、かわいい?)

 アドルフは、かわいいと簡単に言ったが、普通の男なら、気のある女性以外には言わないだろうと思い、納得した。

(蓮アドルフは、金髪の外人だから、恥ずかしいって気持ちが無いのよ、そうに違いないんだから!)

夏菜は強くそう思った。


   〇 ◎ 〇


 その夜、宴が開かれた。輝助と明姫が並んでいる。明姫は、男が近づいてくるたび、冗談を言って追い払っていた。

「やあ、侍女殿」

 アドルフは、笑いながら近づいてくる。ふと、頭にギュッと抱きしめたくなる……と言う、言葉を思い出して、警戒した。

「な、何よ」

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか、それとも、この後の演目で、君が出るから緊張しているのかな?」

「いいえ」

「緊張した時は、肩の力を抜くといいらしいな、夏菜ちゃん、肩かして」

 アドルフは、悪気のなさそうな顔をして、夏菜の肩に手を置いた。

「うん、こっているかも」

「えっ、ちょっと、くすぐったい~」

 アドルフは、楽しそうに肩をくすぐっている。

「や、やめて」

「どう? 緊張解けた? 夏菜ちゃん」

「そう言えば、私の名前をなぜ知っているのですか? もしかして、輝助様からでも聞いたのですか?」

「君、演目見てないの? 月島夏菜って書いてあるでしょう?」

「あっ、本当!」

「明姫が頼る相手なんて、君しか思いつかないからね、だから、君が夏菜ちゃんだってわかったのさ」

「そう」

 アドルフの金髪は美しい、一々、顔が決まっている。少しかっこいいと思ってしまう自分の心を踏みつぶした。

「次の演目は、明姫の琴」

 コロリンテンテンシャンシャン、シャンシャンテンテン~♪

『金雲』の演奏が終わった。全く間違えることはなかった。

(明姫すごい!)

 拍手が湧き上がる、夏菜は当然拍手していた。

 そういているうちに、夏菜の出番が来た。

 夏菜は、明姫とおそろいの鶴の着物を着て、琴の隣に座った。もちろん、お揃いなどと言っているが、着物の細工は全く違うのだ。ただ、お揃いだと、明姫との信頼を見せつけておくのにも良いと思ったのだ。

 コロリンシャンシャンテンシャンシャン♪

 明姫が、腕を斜めにあげて、ゆっくり降ろす、そして、着物の袖を見せるように腕を上げる、そう言う風に舞い踊っているうちに一曲が終わった。

「みなさん、拍手」

 拍手喝采で終わった。

「輝助、お前の嫁、美しいな」

「いいな、あんな女性」

 辺りの人々は、一斉にそう言っている。

(どうだ、明姫は、最高に美しいんだから)

 夏菜は、胸を張った。

「夏菜、ありがとう、うまく行ったわ、全部夏菜のおかげよ、助かったわ」

 明姫は、夏菜に、ひたすらお礼を言った。

「いえいえ、明姫の実力ですよ」

「そうかしら?」

 その時、蓮アドルフが後ろを通った。

「あの人の髪、浅ましい色ね、金なんて」

「えっ?」

 夏菜は、金色が浅ましい色だと思わなかった。むしろ、きれいな色だと思っていたので、アドルフが、陰でそんな事を言われて育っていた事に気付かなかった。

(蓮アドルフ、少し、かわいそうかな?)

 そう思ってみると、アドルフは、どの男性とも酒を酌み交わさない、まるで、外れにされている様だった。

「外人だと、何かいけないの?」

「あら、だって、私達と違う血が流れているのよ、気持ち悪いじゃない」

 明姫は、そう言って、去って行った。

(蓮アドルフは、同じ人間よ、それなのに差別するの?)

 確かに、アドルフは、初めて会った時、「外人だから差別しているの?」と聞いてきた。その瞬間にいいえと答えた夏菜は、アドルフからしたら、感じのいい人に見えたに違いない。

(だから、私に構うのかしら?)

 その日の宴が終わった。


   〇 ◎ 〇


 帰ろうとした時、明姫は、今日から輝助と床を共にすることになったと言っていた。

(輝助様は、無理強いする人柄じゃなさそうだし、夫婦仲がよろしいのは良い事ですよね、明姫の子供を手に抱く日が来るかもしれないのね)

 うきうきして歩いていると、またしても、アドルフがいた。

「やっ」

「……」

 夏菜は、少しだけ下を向いた。

(私まで、この人を差別したら、この人、どうなるのかしら?)

 かわいそうだと思い、アドルフを見た。

「どうしたの? そんな目をして」

「だって、あなた、笑っているけど、さみしそうなんですもの」

「……」

 アドルフは黙って固まった。

「夏菜ちゃん、今、君をギュッとしても怒らないでくれない」

 そう言われて、夏菜は、アドルフに抱きしめられた。

(きゃー、どうしよう)

「ありがとう」

 アドルフは、すぐに離してくれた。だが、夏菜の心臓の速度は、何倍にもなって、体も、心も、何が何だかわからなくなっていた。

「本当、夏菜ちゃんって純粋だよね」

「か、からかったのですか!」

「ううん」

 アドルフは首を振って優しい目をしていた。夏菜の心臓は、また、速くなった。月明かりに照らし出されて、アドルフの顔がきれいに見える。金髪も光に当たる度、キラキラ輝く。

「あ、あの、前に言いましたよね、金髪の妖精に化かされたと」

「うん、でも、その妖精、本当に化かしたのかな?」

「なっ! 私を信じないのですか?」

「そう言うわけではないけど……」

「アドルフは、明姫をどう思うのですか?」

「う~ん、怪しい女」

「どこがよ! あんなに美しくて、お琴が上手で、舞のうまい女性なんて、この世にいないわよ」

「別に、俺は、そんな事こだわらないし、そうだな~、好みと言えば、俺の好みは君みたいな女の子かな」

「なっ! 明姫よりいいわけがないわ」

「そうかな?」

 アドルフは、それだけ言って、微笑んで、去って行った。

(何、これ、私の方が明姫よりいいですって、見当違いもいい加減にしてほしいわ、あの人は、きっとバカなのね)

 夏菜は、パニックを起こしていた。


 寝床に着いたときは、もうくたくただった。

(考え過ぎたわ、私バカみたい。あんな男に振り回されて……)

 布団に入っても、アドルフが何度も頭に浮かんでくる。

(滅せよ、滅せよ)

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