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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
明姫の輿入れ
6/29

 次の日、朝から雨が降っていたが、風は向かい風ではなく、追い風だった。

 男共の足取りも軽く、休みをほとんど入れずに進んだ。

 足音のザッザッと言う音は、気になるが大人しくしていた。

 しばらくして、大きな城が見えて来た。

「あれが、輝希国てるきこくの城?」

 城がだんだん見えてくる。立派な金飾りを縁々につけて、権力があることを示している様だった。

「到着です」

 夏菜が駕籠かごから降りると、たくさんの出迎えが出てきた。

「今日は、遠くからご苦労様です」

「は、はあ」

 夏菜はとりあえず明姫の所へ向かった。すると、明姫は、ガチガチに緊張していて、顔が貧血の様に白くなっていた。

「明姫、自信を持ってください、あなたは、美しいのですから」

 夏菜は、明姫の頬に触れて、優しくそう言った。

「夏菜がそう言うなら、がんばってみるわ」

 弱々しい声でそう言うので。

「少しお待ちください」

 夏菜は、巾着袋から、化粧道具を取り出した。そして、明姫の白い顔に優しく頬紅をのせていく。

「女の人は、化粧をしたら、これを崩してはいけません、だから、泣いたり、顔を覆ったりは、出来なくなります。ですから、前だけ向いて、力強く笑ってください、出来ますね?」

「うん」

 明姫は、力なく頷き、立ち上がり笑った。

「みなさん、こんにちは、明姫と申します」

 いつもの優雅な物腰で、そう言い、頭を下げた。その姿は美しくて、辺りの人から感嘆の声が漏れた。

輝助てるすけの嫁は、美人でいいな」

 家臣の男がそう言って、前に出た。切れ長の目に、すっとした鼻、とても美しい男の人だった。

「名乗りますね、私は、家臣の五郎と言う者だ、よろしく」

「よろしく、お願いします」

 明姫は、堂々とそう言ったのだが、今まで、一緒に旅をしていた人達は、家財道具を置いて、帰ろうとしていた。

「あの、みなさん、ありがとうございました」

 明姫が、かわいらしい声でそう言うと、みんな顔がゆるみ。

「気にしなくていいよ」

「がんばってくださいね、明姫」

 口々にそう言って、去って行った。

「さあ、中へ入ろうか、そこの侍女、ちゃんと主に付いてきなさい」

 夏菜は、自分の事だと気づき、恥ずかしくなって、明姫の元へ向かった。

「ごめんなさい」

「いいのよ」

 明姫は、化粧効果なのか、堂々としていて、笑っている。

(よかった)

 夏菜が、心の中で安心していると、部屋に入った。

「ここが、客間です。今、明姫の部屋は、準備中なので、ここを使って下さい」

 部屋には、胡蝶蘭が飾ってあり、梅の模様の掛け軸も飾ってあった。畳は緑色なので、細めに取り換えているのだとわかった。

「きっと、ここで、花嫁衣装に着がえろと言う事だわね」

「そうなのかしら」

 明姫は、事態が良くわかっていないようだった。

「白無垢は、もちろん持って来させているから、安心してください、明姫になら、似合うと思いますよ」

 夏菜は、他にも必要な道具を取りに、一回、城の中へ運ぶ途中の品を見に行った。

 探し物は、白無垢と飾りだ。次々と運ばれる品を目で追い探した。

(どれかしら?)

 ずっと、目で道具を追っていたら、白無垢の箱と、飾り箱を見つけた。

「それ、ください」

「は、はい」

 箱を運んでいる人が、返事して、大慌てで、夏菜に箱を渡した。夏菜もうまく受け取り、客間へ急いだ。

「明姫~」

「夏菜、あったの?」

「ええ」

 そう言って、箱を開けて、畳の上に置いてみた。白い布地が美しく、明姫の着た姿を想像するだけでワクワクした。

「さあ、着せます」

「はい」

 着物を着せるには、明姫は、立っていてくれればいいのだ。ただ、何回も結ぶとき、足に力を入れて、踏ん張ってもらわなければいけないので、そんなに楽でもないのだ。

「一、二、の三」

 着物の一部を締める時の掛け声を出した。何回かこの掛け声を繰り返しているうちに、ようやく仕上がった。

「失礼します。準備は出来たでしょうか?」

 五郎が様子を見に来た。

「はい」

 夏菜が返事をした。

「がんばりましょう、明姫」

「ええ」

 明姫の旦那の家臣たちが、祝言とお披露目を兼ねて宴を開いた。部屋の中は、酒の入った男ばかりで、嫌な雰囲気だと思った。明姫の旦那は、金屏風の前で、カチコチに固まっているが、優しそうで、気弱そうな、目の垂れている男だった。

(この人が、明姫の旦那)

 夏菜は、少し受け入れられなかった。なぜなら、明姫の旦那は、才色兼備の恰好の良い人物が良かったからだ。しかし、輝助は、悪い人では、なさそうなので、すぐに落ち着いた。

 明姫は、輝助の隣に座り、盃を交わすことになった。

「明姫~、美しいですな~」

「うん、美しい」

 酒に酔った誰かが。

「この明姫ちゃんと結婚できるならしたい人」

 手を振り上げてそう言うと、部屋中の男が手を挙げた。しかし、ただ一人、手を挙げない人物がいた。それは、金髪の青年だった。

(げっ! 金髪!)

 その時、夏菜は、小さい頃の親を失った恐怖が頭の中を走った。

(いや、いや、金髪の人なんて……)

 夏菜は、一応、必死で耐えた。明姫が、こんなことで不安になられては、困るからだ。

「おっ、ほとんどの人が明姫を嫁にしたいか、よかったな、輝助」

「あっ、ああ」

 輝助は、盃に酒を注ぎ、明姫に渡した。明姫も迷わず飲んだ。

「これで、夫婦だね」

「ええ」

 輝助は、にこやかに笑い、場が和んだ。

 ところが、夏菜は。

(あの金髪の奴、一回はっ倒さなくちゃ)

 明姫を嫁にいらないと言った事と、昔の、金髪恐怖症で、頭の中が怒りでどうにかなりそうだった。

 金髪男と目が合うと、ふふっと笑っていた。

(なっ! 笑った! あいつ、私をバカにしているのね!)

 夏菜の怒りは、頂点に達していた。

 そんな中、明姫の祝言が終わり、袴姿の男達はいなくなった。

「夏菜、私ちゃんとできた?」

「ええ、もう、ばっちりです」

 夏菜は、怒りを殺して、笑顔でそう言った。

「そうなの、それならよかった」

 明姫は、笑顔でそう言う。

 夏菜は、金髪男の事で頭がいっぱいだった。

 その夜、夏菜と明姫は、客間で寝ることになった。輝助は、酒に弱く、強く酔ってしまわれた様で、床は共にしないことになったのだ。

「ねえ、夏菜、輝助様って、どう思う」

「いい人じゃないですか?」

「そうよね、いいひとよね」

 明姫は、少し考え込んで返事した。その時は、明姫には、輝助に不満があったのだと思った。しかし、輝助は、確かにいい人だった。酒の席でも、明姫に、飲めるか訊いていたし、他の酔っ払いをうまく撒いていたし、申し分のない人に感じたのだが、人の心は分からないものである。

「明姫、やっぱり顔ですか?」

「えっ?」

「輝助様、顔がいまいちだったじゃない、それで、不満なのでしょうか?」

「いいえ、不満では、ありませんよ」

「?」

 夏菜は、不思議に思い寝た。

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