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城に戻ると、みんながうわさをしていた。
「まあ、きつねがいないとずいぶんなお顔なのね」
「普通の女じゃん」
「あの美しい女性はきつねだったなんて」
「皆さん、仕事にお戻りください」
夏菜は、明姫をかばってそう言った。
明姫の部屋に向かい、食事をしていたが、明姫は、あまり食べる気が無いようで、箸を握って座っている。
「大丈夫ですか?」
「何だか、ムカムカするの」
「ストレスですかね?」
「そうかもしれないわ」
夏菜は、とりあえず、医者を呼んだ。
そして、数時間後医者が来て、人通り明姫を見て。
「オメデタですね」
「まあ、輝助様の子がいるのですか」
夏菜は、明姫が城に残る理由も出来た上に、明姫に子供が出来たと言う事で、大いに喜んだ。
明姫懐妊のニュースは、城中を駆け巡った。
「輝助様の子供ですか」
「殺した相手の子供なんて、何かかわいそうね」
女の人は、明姫が、自分の子供を愛せないのではないかと心配していた。
しかし、明姫は嬉しそうだった。
「よかった。私、もう一人じゃないんだ」
「明姫、私がいるでしょう」
夏菜は、拗ねるようにそう言った。
「だけど、夏菜は、アドルフ様の物だもの」
「明姫を侍女として引き受けなくてよくなったのですもの、別れようかしら」
冗談でそう言っていると。
「ひどいな~夏菜ちゃん、俺と明姫どっちが大事なのさ」
「どっちも、めんどうくさいから選ぶことはしないわ」
「ええ~、俺じゃないの」
アドルフは、悔しそうにそう言った。
「それより、アドルフは、仕事でしょ、私は、明姫といますから、しっかり働いて来てください」
「はーい、明姫、明姫って、面白くないな~」
「夏菜、たまには、アドルフの相手もしたら」
「いいんです。私、まだ、結婚していないもの」
「それじゃあ、すればいいじゃない」
「そう言うわけにもいかないでしょう」
夏菜は、恥ずかしそうにそう言った。実は、一度、明姫のために、求婚を受け入れたのだ。だから、アドルフが、いつ、結婚に踏み切ってもおかしくは無い状態ではあるのだ。
「アドルフ様は、まだ、求婚なさらないの?」
「いいえ、良いと言いました。ただ、それは、明姫のためだとも言いました」
「そのような返事では、アドルフ様は、夏菜の求婚への返事をなかったことにしたのかも知れませんわね」
(ええ!)
「だって、私の為なんでしょう、その返事じゃ、アドルフ様が納得していないのかもしれないわ」
「そっか、もう、明姫は、安泰な立場で、私の返事の意味がないんだ」
「だから、踏み切らないのよ」
「……もう一回、求婚を待つべきかしら?」
「もう、夏菜から言ってあげたら、結婚したいって」
「……」
夏菜は、恥ずかしさから、真っ赤になった。
「出来ないわよ」
「がんばれ」
夏菜は、明姫が元気になり、うれしそうな顔で、応援してくれるので、少し安心した。
「うん、がんばるね」
少し気合を入れた。
〇 ◎ 〇
アドルフの元へ向かった。
「アドルフ、差し入れ持ってきちゃいました」
「夏菜ちゃん」
藍色のうさぎ模様の包にお弁当を入れて、手に持って行った。
「さあさあ、おいで」
そう言って、隣に座ろうとした時。
「山岡屋です」
大荷物の太めの商人が入って来た。
「おおっと、夏菜ちゃん、お弁当ありがとう、今は、忙しいから、また今度、来てくれないかな?」
「え、ええ、そうですね」
アドルフは、手を引っ込めて、商人を見ながら言った。
「こちらの商品は~」
夏菜は、そそくさと部屋を出た。
(明姫、うまく行きますように)
明姫の助言で、煮物を作ったのだが、うまく行くか不安だ。煮物は、にんじん、サトイモ、インゲンを醤油で煮た簡単な物である。明姫は、いつも、「夏菜の煮物は格別よね~」と言っていたけど、きつね時代の事なので、少し信頼していない。
「明姫、行ってまいりました」
「よくやったわ、まず、胃袋をつかむのよ」
明姫は、妙に張り切っている。
「そんなに、私を結婚させたいですか?」
「夏菜は、誰よりもいい子だから、誰よりも幸せに成らないとだめなのよ」
明姫は、夏菜の余った煮物をみつめている。
「おいしいそうですか?」
「大丈夫おいしそうよ、夏菜の煮物は、いつだっておいしそうよ」
明姫が喜んでそう言う。
「煮物の醤油の量は、どうやって、調節しているの?」
「目分量です」
夏菜は、恥ずかしくなってそう言った。
「へ~、もう夏菜は、目で見てわかる位、作り慣れているんだ」
「下女だったころ、下女頭に、みっちりたたき込まれまして……」
「そうだったの」
夏菜は、明姫に少し呆れた。
「夏菜、間違いなくおいしいから自信を持って」
「うん」
しばらく明姫と話しこんだ。すると、アドルフが現れ。
「夏菜ちゃん、お弁当おいしかった。特にサトイモの煮物がおいしかったよ」
「本当!」
夏菜は、うれしくなって、顔を輝かせていると。
「庭で、話をしない」
アドルフは、そう言って、夏菜の手を取った。
「はい」
二人で、手をつないで、庭に向かうと、花々が咲き乱れていた。色々な色の花がたくさん咲いており、きれいだった。
「アドルフ、その……」
照れていると。
「明姫、元気になってくれてよかったね」
「うん、だって、明姫は、私の友達だもの」
「もう、敬愛したり、憧れたりはしないんだね」
「ええ、今は、いい友達よ」
夏菜は、イキイキした様子でそう言った。
「夏菜ちゃんには、昔、明姫しか見えない時代があったよね」
「うん、あの時は、完璧にきつねに化かされていたわ」
アドルフは、悔いる夏菜の頭をなでた。
「大丈夫、夏菜ちゃんが悪いんじゃないよ、ただ、君は、明姫に一生懸命だっただけなんだから」
「ええ」
夏菜は、アドルフの手を握り。
「それで、用件は?」
「あの、その……」
アドルフが慌てだした。
「夏菜ちゃんは、俺と結婚する事をどう思っている?」
「えっ?」
(どう思っている?)
「一生、側で見守っていてくれる? 君は、幸せに成れる?」
アドルフは、顔を真っ赤にしてそう言う。
「私は、あなたの一番最初の許嫁なのよ、その時から、ずっと、あなたと結婚する約束をしていたはずよ」
「そうだね、でも、嫌ならいいんだよ」
「じゃあ、嫌って言ったら」
「良いって言うまで、抱きしめる」
そう言って、後ろから、ぎゅっと抱きしめられた。
「どうしようかしら、私も良いって言えなくなりそう、あなたが離れたら寂しくなるから」
アドルフの腕に頬をよせた。
「愛しているよ」
「私も」
しばらく二人で抱き合っていた。
「あの~、もう、仕事の時間ですよ、アドルフ様」
下働きの武士が、罰として、アドルフを呼び出しに来たらしい。何人かの武士がこちら見ている。
(はずかしい)
「いやー仲がいいですね」
「え、ええ」
夏菜は、頬を染めて、返事した。
(いつから、聞いていたのかしら?)
「祝言の日も近いね~」
アドルフが、からかわれていた。




