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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
輝助の死
25/29

 次の日、訴状が出た。明姫を捕まえると言う物だった。

(! アドルフ、もしかして、明姫を裁く気)

 夏菜は不安になった。

(大丈夫かな?)

 太陽が昇っている昼間に、裁判は開かれた。瓦版を持って会場に向かうと、丁度始まるところだった。

「アドルフよ、中へ」

「はい」

「明姫、中へ」

 明姫は、縛られ、アヤカシ封じのお札を貼られている。

「きつね憑き」

 観客は、明姫を白い目で見ている。

「アドルフ殿、この娘をどうする」

「きつねを払って、城で引き取る」

 そう言うと、観客が怒鳴り出した。

「その女、輝助様を殺したんだぞ、生かす必要はない」

「そうよ~」

「そうだ!」

 会場は、怒る人が多く手に負えなかった。

「しかし、この明姫のきつねは、十年前に憑いた物、輝助兄さんを殺すために引き入れたとはいえない、それに、きつねのやったことだ。明姫は、決して悪くない」

 明姫が安堵の表情を浮かべた。すると、きつねが。

「払われる何てごめんだね」

 姿を現した。明姫の頭の上に紫の光が、きつね型で浮かび上がる。

「この女は、死ぬ、私を払えば」

 きつねは、したり顔でそう言った。

「きいているか、夏菜」

 みんなの視線が、夏菜に集まる。

「お前が良くても、この民衆はどう思う? 美しかった明姫が、実は、美人では無かったと知ったら」

観客はざわざわしだした。

「それは、本当か」

「ああ、アドルフ、今までの明姫は、全部、私、きつねが演じた物だ。薄々気づいていたんじゃないか? 何か変だと」

「ああ」

「アドルフ!」

 夏菜は、思った。アドルフは頑として明姫をよく言わなかった。それは、この違和感のせいだったのだと。

(私が、もっと早く気が付いていれば)

 夏菜は自分を責めた。

(不思議だ。五年以上一緒にいたのに、ちょっとしか一緒にいないアドルフの方が気付くなんて……)

 その時、ふと、アドルフが、「長く一緒にいるからわからない事もあるんじゃないか?」と言っていたことを思い出した。

(長く一緒にい過ぎたのか)

 夏菜は、目を閉じて振り返った。

(あれは、きつね、これは、明姫)

 長く一緒にいるからわかる、二人の違い。

 その時、明姫の上のきつねが。

「おい、夏菜、お前は小さなことで、すぐ、明姫を持ち上げてくれていい奴だったよ、とても、利用しやすくてな」

 夏菜は、カチンときたが、堪えた。

(明姫じゃなく、私は、きつねに憧れていた。それは、事実だわ。でも、私は、きつねじゃない明姫を知っている)

「きつね! 今、明姫は、泣いているんじゃない? 私と明姫は、ずっと一緒にいたのよ、明姫は、気が弱くて、誰よりも優しい、そんな人が、私をなじられてうれしいわけがないでしょう」

「ぐっ」

 きつねは、少したじろいだ。

「お前が、憧れていたのは、私だぞ」

「ああ、そうだよ、私が憧れていたのはあんただ。でも、私が本当に好きなのは、明姫本人の方よ」

 夏菜はド迫力でそう言った。

 きつねも、どうしていいのかわからず、困っている。

 観客から、夏菜は裁判場へ柵を乗り越えて入った。

「明姫」

 縛られている、明姫の手を取った。

「私は、約束した。あなたを守るって」

 一枚の紙を明姫の着物から取り出した。あの誓約書だ。

「これは、私の書いた物だわ、きつねを何とかして払いましょう、そして、明姫を受け入れます」

 その瞬間、きつねが狐火を放って紙を燃やした。

「これで、無かったことになった」

「……」

 すると夏菜は、筆を持った。今度は、明姫の腕に書き出した。

「へへ~ん、これで、燃やせないでしょう」

「く~」

 きつねは、悔しそうに声を上げる。

「夏菜、逃げて」

 明姫がそう言った。その瞬間、きつねが、狐火を放った。

「お前、厄介、殺す」

「きつねの奴、夏菜に何しやがる」

 アドルフは、刀を持ってきつねに向かって行った。

「私をなめやがって、バカにしやがって」

 きつねがどんどん大きくなっていく。

「きゃー」

 観客も逃げ出した。

「よくも、私の計画を邪魔したな、この女の体をいただくまで、もう少しだったのに、許さないよ」

 きつねの姿は、見上げるほど大きくなっていた。

「アドルフ、これじゃあ倒せないよ」

 明姫がもやの中へ取り込まれて行く。

「明姫ー!」

 夏菜は、大声を上げた。

(守るって決めたのに……)

「夏菜ちゃん、落ち着いて、今日の俺の刀は、霊祓師が作ったものなんだ」

「それって、あの、アヤカシにも勝てるって事?」

「たぶんね」

 アドルフは、ひらり、ひらりと飛び跳ねて、妖気を一か所に集めているようだった。

「こしゃくな、何をしている」

 アドルフが言うには、アヤカシには、核がある。それに札を貼れば、払えると言う事だった。だが、その核は、限りなく明姫である可能性が高いと言う事、最悪、明姫も天国行きだ。

「明姫、明姫~!」

 もし、明姫の気持ちが、きつねと分離していた場合、助かる可能性がある。出来れば、明姫の気持ちを離すようなことをしていて欲しい。

(何をすれば?)

 夏菜は、ただ、明姫の名を呼んだ。声がかれそうになるまで。

 アドルフが、宙を舞う。妖気を切り出しているようだ。

「そんなことしても無駄だよ!」

 きつねは、アドルフをバカにしたようにそう言う。

 アドルフは、道を作っているのだ。夏菜が、明姫の元へ届くまでの。

(札は、持っているし、あとは、突っ込むだけ)

 夏菜は、明姫の心がきつねと分離している事を祈った。

「明姫~」

 確信はなかった。だが、明姫が笑ったような気がした。

(もしかして、分離されているのかもしれない)

 アドルフが作った道を進みながらそう思った。

「明姫」

 明姫の本体の所まで、何とか着いて、明姫をぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫」

「うん」

 明姫が頷いた。その瞬間に札を貼った。

「ぎゃー」

 きつねは明姫の体から出て行った。そして、明姫の見た目が、少しぽっちゃりした。細い目の少女に変わっていた。

 残っていた観客は、明姫を見て。

「きつねが憑かないと、普通の女だな」

「本当、私達、きつねにつままれていましたわ」

 明姫は、とてもショックな顔をしていた。明姫は、自分の顔に自信が無いのだ。だから、言われると耐えられないのだろう。

「明姫、みなさんは、明姫の顔が変わったのに驚いているだけですよ」

「そんなことない、醜いって思っているわ」

 明姫は小さくなって泣いていた。

「もう、きつねは、いないのよね」

 弱々しくそう言うので。

「明姫、いつまでアヤカシにすがっているつもりですか、あれは、あなたではなく、ニセモノなのですよ」

「そうだけど……」

 認めきれないように下を向く。

「いつまで引きずっても何にもなりませんよ、前を向きましょう」

「夏菜だって、本当は、私なんて、もう、嫌でしょ」

「約束したから」

 そう言って、明姫の腕を見せた。そこには、しっかり、「侍女として引き取る」と書かれていた。

「これは、私が死なないようにしてくれたのでしょう」

「明姫、今のあなたは、贅沢など言っていられないのですよ。今は、無理やりつけた約束でも頼らないと、顔と度胸と言う後ろ盾は、もうないのですから」

「……」

 明姫は、少し考えて、「ありがとう夏菜」と笑った。

 そこに、裁判官が戻って来て。

「判決へ、アドルフ無罪として、明姫を有罪とする」

「ちょっと待ってください、彼女だって、きつねのいない今、罪人にはなりません」

 アドルフは、一生懸命そう言った。

「しかし、今回の裁判は、きつねを誰が引き入れたかが争点でして……」

「それなら、化かされていた輝助様と言うのはどうですか? 嫁にしたのだから、化かされたも同然です」

「……うむ、そうだな、では、有罪は、輝助様で決着」

 裁判官がそう言って、裁判は終わった。

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