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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
輝助の死
24/29

 次の日、アドルフの裁判は、証拠不十分で、判定が出来ないので、延期となった。

「明姫、アヤカシを呼び寄せる、ろうそくで、きつねを捕まえちゃいましょう」

「うん」

 明姫と二人で、きつねを探し始めた。庭に出て、ロウソクに火をつけたのだが、一行にきつねのアヤカシは出てこなかった。

「おかしいな~」

 注意書きには、『あまりにも力の強いアヤカシには、効きません』と書いてあった。

「もしかして、きつねのアヤカシって、とても強いの?」

 ゴホゴホと明姫がむせている。

「大丈夫ですか、ろうそくの煙を吸ってしまわれましたか」

「そうみたい」

 明姫は、ゴホゴホと咳を続ける。

「今、消しますね」

 夏菜は、ろうそくを消した。

「それにしても、早く見つけなくちゃ」

「アドルフ様が、危ないのでした物ね」

 明姫は優雅にそう言う。

「明姫、輝助様が亡くなって得をする人って誰でしょう?」

「どう考えても、アドルフ様ですわ」

「そうですよね」

 夏菜は、軽くへこんだ。この城には、損をする人はいても、得をする人はいない。どうして殺されたのか、全く分からない。

(せめて、動機がわかれば)

 城の中へ入ると。

「アドルフ様、まだしっぽを出しませんよ」

「でも、証拠がないんでしょう、無罪だったら不敬罪に当たるかもしれないよ、あんまり、そう言う事言うんじゃないの」

 おばさんの女官に怒られている武士がいた。夏菜の見た感じでは、みんな、半信半疑で生活している様だった。確かに、アドルフは得をしたが、三森も怪しい、みんな、どちらが正しいとも言い切れないようだ。

「私は、アドルフ様やってないと思う」

 人垣の中で、一人の下女がそう言った。

「何で? 怪しいじゃん」

「きつねを引き入れるなんて、アドルフ様らしくないじゃないですか?」

「美しい女狐に男はだまされるって決まっているのさ」

「でも、アドルフ様、美しさにこだわる人ではないじゃないですか、どちらかと言うと、夏菜さんのような、ちっこいのが好きなんじゃないでしょうかね?」

「確かに」

(どうせ、私は、ちっこいですよ)

 夏菜が拗ねていると、明姫が倒れた。

「大丈夫ですか?」

 眠っているだけの様だ。

「疲れたのですね? でも、まだ、何もしてないけど?」

 夏菜は、不思議に思いながら、辺りの人に協力してもらって、明姫を部屋まで運んでもらった。

「皆さん、ご苦労様です」

「困った時は、お互い様だよ、明姫はショックだっただろうからね」

 武士の一人がそう言って、明姫を持ち上げ、布団の中に入れてくれた。

「助かりました」

 夏菜が喜んで、笑顔を浮べていると。

「本当に、明姫は美しい」

 見惚れていたので、外へ追い出した。

(明姫は、今、旦那がいないのだから、誰に求婚されるか、わかった物じゃないわ、ここは、私が守らなければ)

 夏菜は、必死にそう思っていた。

 明姫を見つめて、長いまつ毛や、かわいらしい口元、顔立ちの良さに、改めて、見惚れていた。

(やっぱり、私の憧れた明姫ですわ)

「輝助様、ごめんなさい」

 明姫がそう口走った。

(明姫は、謝らなければいけない事をしたのかしら?)

 夫婦の事だから、何があってもおかしくないと思った。

(明姫だって、根掘り葉掘り聞かれたら、嫌でしょうし……)

 夏菜は、心の中でそう思い、座っていた。こうしている間にも裁判の判決がひっくり返る可能性はないわけじゃない。アドルフの命を助けなければいけないと、少し焦っていた。

「アドルフ……」

 近くにアドルフのいない日々が続いて、アドルフの事を考えてしまう事が多くなってしまっていた。

(恋しいよ……)

 布団に入って、あおむけになってそう思った。

「夏菜」

 明姫が声をかけて来た。

「きつねを探しに行こう」

「そうですね」

 明姫は、まだ本調子じゃないのか、ふらふらしている。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫~」

 明姫は、無理して明るくしているのが丸わかりで、見ていて辛かった。

「明姫、それほどまでに輝助様を愛していらしたのですね?」

「えっ? あっ、うん」

 明姫は少し考えたようにそう言った。

(はずかしいのでしょうか?)

 夏菜には、それは、照れ隠しに見えた。

「夏菜~、丁度よかった。琴弾いてくれない? 琴の大会の出場者が足りないの」

 手を振ってそう言うのは、下女の女の人だった。

「だったら、明姫が、弾いた方がうまいですよ」

「そうですね、頼んでいい」

 輝助が死んでから、初めての大仕事だ。明姫は、緊張しているのではないかと思ったが、そうでもなかった。

 こんな時でも、城は、娯楽を忘れず。琴の演奏会が開かれていた。人数が足りないので、明姫は人数合わせだ。

 桃色の着物をまとい、明姫は舞台に上がった。

 テンテンシャン、テンテンシャン、テンテンテンテンテンテンシャンと音が響いた。

 一曲通して観客の心を離さない見事な演奏だった。

(明姫、すごい!)

 夏菜は、割れんばかりの拍手に紛れ、拍手した。

 明姫は、実に堂々としていて、つい、この間まで、悲しみを背負っていた人にはとても見えなかった。

「美しい」

 と演奏中にため息を漏らす者も居た。

 優勝は、明姫となり、みんな、もう一度拍手を送った。

「明姫、お疲れ様です」

「夏菜のおかげで、出来たのよ、舞台から、良く見えていたのよ」

「そうですか」

 明姫が元気な様子だったので、つい、気合が入ってしまったのは、認めることにした。

「そうだ、一緒に琴を弾きませんか?」

「そうね、いいわね」

 明姫も認めたので、部屋に琴を並べて。

 テンテンシャンテンテンシャンと弾いた。

 テンテンシャン コロテンテンシャン テンテンシャンと明姫が弾く。

 二人で合わせて、テンテンシャンと鳴らした。

「明姫、本当にうまいですね」

「いっぱい練習したから」

 明姫は、笑顔でそう言った。

「怪し、きつねのうつし鏡の所、また鳴らない」

「本当?」

「まさか、このお琴に憑りついているのかもしれませんわ」

「そうか、だから、だれも気付かなかったのね」

 札を貼って、払おうとしたが、きつねが出てこない。

「ま、待てよ、この城に来てから、変な事ばかり起きるのは、嫁入りの時に、きつねを引き入れちゃったからなのかしら?」

「そうでしょうね」

「きつねも、にぎやかさに紛れて、一緒に入って来てしまったのね」

 夏菜は、急いで嫁入り道具を探した。

「これじゃない、これじゃない」

 結局、全部見たが、出てこなかった。

「どうしたの、夏菜?」

 明姫が手を差し出す。

(待て、待て、嫁入りのときに入ったのならば、明姫がそうなんじゃないの?)

 ざっと後ずさりをした。

「夏菜、どうしたの?」

「この紐を握ってください」

「いいわよ」

 明姫が握ると、ピンク色に変色した。

(やっぱり、明姫がきつねを引き入れたのね)

「明姫、いや、きつね!」

「な~んだ、ばれちゃったか~」

 明姫は開き直ったようにそう言った。

「輝助様をなんで殺したのですか? あんなにいい人だったのに」

「いい人? 聞いてあきれるわ、輝助様に、明姫の素顔を見られたの、そしたら、ドン引きしていたわよ。十年間憑代にしてきたけど、こんな失態初めてだわ。輝助が、ウワサを広める前に殺したのよ」

「素顔?」

「明姫はね、美しくなりたくて私を呼んだのよ。寿命を糧として、私の憑代に自らなると言ったわ」

 夏菜は、今までの明姫の姿が作り物だったことにショックを受けた。

「そんな、それじゃあ、私の敬愛した明姫は、ニセモノだったの?」

「ええ」

 明姫の姿で開きなおる。

「かわいそうな夏菜、ずっと騙されていたのよ」

「うそっ……」

 夏菜は、言葉を失った。

「私を払ったら、明姫は、違う人になるのよ、あなたの憧れた明姫じゃなく、あなたの憧れない明姫に……」

 ぐっと夏菜は、下唇をかんだ。

(明姫がいなくなる)

 ずっと憧れて来た明姫が、別人になる。少し、急には受け入れられない話であった。

(でも、明姫をこのままにしていていいの?)

「明姫は、よく泣く弱い女の子でした」

「何? 急に」

「美しくて、優雅で、誰もが憧れる存在だった」

「美しくて、優雅で、と言うのは、合っているけど、私は、泣き虫じゃないわよ、きつねは泣かないもの」

「えっ?」

 明姫は、よく泣いて、不安そうで、本当はそう言う女の子のはずなのに。

(きつねじゃないとすれば……それは、素の明姫)

 夏菜は、気が付いた。自分が敬愛していた明姫の全部がきつねで出来ているわけではないと言う事。

(悲しんだり、不安になったりするのは、本物の明姫だったんだ)

 そう思うと謎も解ける。明姫が、なぜ、本番に強いか。いつも急に堂々とし出すのは、今まで、きつねが代わりにやっていたからだったのだろう。

 夏菜は、明姫の弱い所も嫌いじゃなかった。

「夏菜、私、美しくなくなったら、もう、誰も必要としてくれないんじゃないかしら?」

 明姫がきつねではなく、自分でしゃべった。

「そんなことありません」

「だって、私、かわいくないのよ、美しくもないのよ」

 確かに明姫の場合、生活を顔が助けてくれていたのは、本当の事だ。

「でも、良い事ではないですよ」

「それでも、きつねがいないと、私、ダメになっちゃう」

 明姫は、気が弱い、きつねがいなくなったら、琴も舞も人前では、出来なくなってしまうだろう。

(どうしたら良いのかしら)

「でも、どっちにしろ、私は、死刑なのかしら?」

「なぜ?」

「夏菜は、きつねを引き入れた犯人を見つけて捕まえなければいけないのでしょう? アドルフ様のために」

「!」

 夏菜は、明姫の事で、驚きすぎて、アドルフの事を少し忘れていた。

(そうよね、明姫を捕まえないと、アドルフが殺されてしまう)

 明姫か、アドルフかなど、選べるはずがなかった。

「明姫、私、明姫の事大好きでした」

 明姫は「でした」と言う所に過剰に反応した。

「やっぱり、私を売るの?」

「いいえ」

「じゃあ、アドルフ様をあきらめるの?」

「いいえ」

 夏菜の目は死んでいなかった。

「私は、二人共大好きです」

「!」

 明姫が驚いた。

「例え、きつね憑きでも、一緒に過ごした明姫の中に本物は、ありました。ですから、全部が全部、ウソではなかったのでしょう」

「夏菜」

「明姫、きつねに負けていられませんよ」

「……」

 明姫は、きつねを払われるのが嫌そうだった。

「でも、本当にがっかりして、夏菜まで離れるかもしれないよ」

 また、きつねが顔を出した。

「みにくくて、気が弱い明姫なんて、夏菜でも捨てるよ」

「そんなことない」

「ああ、きれいごとを言って、アドルフ様が助かる事しか考えていないのよ」

 明姫は、びくっとふるえた。きつねの言っている事を本気にしてしまったようだ。

「違うの明姫」

「夏菜も、私なんて、必要としていないのね」

 夏菜は、きつねのいる限り話し合いにならないと思って、札を出した。

「やめて、夏菜、きつねを消さないで……」

 弱々しく明姫が言う。

「でも……」

「いいのよ、私は、きつねがいるの」

 明姫は、だだっこのようにそう言った。

(明姫ったら、きつねに化かされているわ)

 とはいえ、いきなり払うわけにもいかない。

(アドルフの命も掛かっているのに、どうしたら良いのかしら?)

 もどかしくて、イライラしていた。

「明姫、約束を思い出して下さい」

「約束?」

「どんなことがあっても明姫を嫌いにならないって、あの時の約束は、この時のための物じゃなかったのですか?」

 明姫は、おどおどしている。

「でも、あれは、口約束だもの、すぐに破れるわ」

「破りません」

「でも、本当の私の顔を見たら、そんなことも言えなくなるわ」

「言えなくなりません、明姫は、本当は心の中で、ばれても仲良くしてほしいと思っていたんじゃありませんか」

「……」

 図星のような顔をした。

「私は、約束を破りません、出来れば顔を見せてください」

 明姫は、ためらった。しかし、きつねを少し払ってくれた。見えた顔は、少しぽっちゃりしている。細い目のかわいらしい女の子だった。醜いとまでは、行かないが、美しいとは程遠い顔で、若さだけが可愛さのような顔つきだった。

「これでも、明姫との約束を守れる?」

「守れます」

 しばらく明姫は考えた。

「うそよ、うそ、アドルフ様を助けたいだけだよ」

 きつねが煽る。

「私は、何も変わらない、例え明姫が美しくなくても、これからも、私の侍女として、この城で、私と過ごしてもらうわ」

「本当」

「では、紙に書いておきましょう、それなら、安心できますでしょう」

「ええ」

 夏菜は、細い筆を取り出して、ささっと、「明姫を侍女として雇い、輝希城で保護する」と書いた。

「これで、もう、きつねが何を言っても無駄だよ」

「きー」

 きつねは、悔しそうに声を上げた。

「では、払う」

 そう言った瞬間、きつねは。

「殺す、殺すぞ、明姫を」

「やめて、やめてちょうだい」

「それなら、払うのをあきらめろ、明姫と私はつながっている。私を払うと、明姫も死ぬことになるぞ」

「……」

 一回、きつねは撤退した。城のどこかに隠れたようだ。

「どうしよう」

 夏菜は焦った。これでは、アドルフも明姫も救えない。地面にしゃがみ込んだ。きつねとの戦いは、かなり、きつかったのだ。

 しばらく休んで、アドルフに相談することにした。

 牢に向かうと、門番がいた。

「入れない」

 アドルフとコンタクトを取ろうと思ったが、無理のようだ。しばらく、牢の前に座っていると。

「食事を持ってきました」

 下女の食事運びだけ中へ通されていた。

(これだ!)

 夏菜は、さっそく下女に頼みに行った。

「えっ? 牢に食事を運ぶ仕事がしたい?」

 下女頭は、不思議そうな顔をした。そして、夏菜の顔を見て。

「逢引きか」

 と喜んだ。

「違います」

「アドルフ様と夏菜さんの関係は、知れ渡っているんだから、今更隠しても、無駄と言う物だよ」

「そ、そうですか」

 何だか、複雑な気分だ。

「でも、いいの? 顔を見られたら、入れないかもよ」

「そこは、髪型を変えて、顔がわからないくらいの、濃い化粧をすれば、わからないと思うわ」

「そうだね、じゃあ、化粧しておいで」

 そこで、夏菜のしてきた化粧は、白塗りだった。

「あっ、はっはっはっ、夏菜ちゃん最高」

「そうでしょう、わからないですよね、これなら」

「わからない、わからないって、でも、笑ってしまうわ」

 下女頭が盛大に笑っていた所、下女が入って来そうになったので。

「ほら、みんな働いているか?」

 下女頭は、気合を入れてごまかした。

 そして、食事を届ける時間になり、列に並んでいた。門番がこっちを見て笑いそうになっていた。

(いいのよ、笑われたって、そのための化粧だもの)

 中へ入ると、真っ先に化粧を落とした。落としやすいように、薄い紙の上に化粧を塗っていたのだ。

「アドルフ!」

「夏菜ちゃん……つやつやだね」

 薄い紙は、保湿成分が入っていて、肌をつやつやにしてしまう。

「ダメでしたか」

「いや、美しく見えてしまって」

「そんな……」

 少し照れていると。

「時間がない、用件を言って」

「はい、きつねの件ですが、明姫に十年前から憑りついていた物らしいです」

「明姫にきつねが?」

「はい、でも、明姫は、輝助様を殺すためにきつね憑きで結婚したわけではないのです。どうか、命だけでも助けてあげられないか?」

「そうだな、アヤカシがやったこととはいえ、人殺しだからな」

 アドルフは、首をひねった。

「明姫は、何があっても助けてください」

「わかった」

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