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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
輝助の死
23/29

 次の日の朝は、晴れの日だった。朝日は眩しく、明姫の部屋にも、平等に差し込んで来てくれた。

「さあ、髪を梳かしましょう」

 明姫を鏡の前に座らせる。夏菜はくしで、優しく明姫の髪を梳かした。

「夏菜、輝助てるすけ様は、本当にもういないの?」

「ええ、一緒に、最後の別れをしてきましょう」

 そう、今日は、輝助のお葬式をする日だったのだ。黒い着物に身を包んでいる、明姫は悲しそうだった。

 夏菜も、着物を着て参列した。

「明姫、最後に顔を見てあげてください」

「本当に、その棺の中に輝助様がいるの?」

「ええ」

 箱の上の部分だけを外して、顔を見た明姫は泣き出した。

「ああ、輝助様! なぜ、私を残して……」

 そう泣いた後。

「ごめんなさい、ごめんなさいね、取り乱してしまって」

「ええ、いいのですよ、旦那様だった人なのですから」

「そうね」

 明姫は、悲し気にそう返事した。棺は、運ばれて行き、墓に埋葬された。

 夏菜は、明姫が心配でたまらなかった。だから、数日付きっ切りで、相談相手になってあげた。

 時々、悲しくなって、泣きだす明姫も愛おしかった。

「なんか、夏菜は大人になったね」

「そうかしら、背はちっこいままよ」

「背は、ちっこいけど、夏菜が時々、神様のように見えるの」

「それなら、ずっと前から、私の神様は、明姫でしたよ」

「昔は、よく、そう言っていたわね」

 明姫は、優しく笑う。しかし、不安そうだ。

「大丈夫です。これからも、雑用は、私の方が得意ですから。明姫には、滅多にさせませんし、快適に暮らせますから」

「夏菜、何を知っても、私を嫌いにならない?」

「ええ」

「うん、夏菜の事信じるね」

「はい」

 明姫は、眠くなり、昼寝をしていた。

(アドルフの所へ行こう)

 こっそり抜け出して、アドルフの所へ行くと。

「アドルフ様、経理の村岡です」

「村岡か、覚えておく、お前は、何の仕事をしていたんだ」

「え~とですね……」

 アドルフは、輝助の分もしっかり働いていた。とても忙しそうに見えたので、遠くからみつめて帰った。

(そういえば、きつねのアヤカシがまだ見つかっていない)

 夏菜は、次の標的がいるかもしれないと言う恐怖が頭をよぎった。

(次は、アドルフ?)

 狙われそうだと言えば、輝希国てるきこくの滅亡を望む奴ならば、アドルフだろう。

 夏菜は、少し考えた。

(アドルフは、札を持っている。そんな相手に近づくかしら?)

 それは、アヤカシとしてもかけになるだろうと思った。

「ねえ、それ本当?」

「ええ」

 小声で話す女がいた。

「アドルフ様が、きつねを引き入れたって」

(えっ?)

「城主の座を狙っていたのよ、でも、ほら、外人だから、兄を殺すくらいしなくちゃいけないわよね」

(何、あれ? そんなうわさが流れているの?)

 その時、夏菜は、思った。輝希国を滅亡させたい誰かは、アドルフをきつねを使って、失墜させるつもりだと。それは、アドルフが兄殺しで、捕まり、殺される。そんな未来を考えたのだろう。

(誰なのかしら? 怪しい人物は、まだ見つからない)

 夏菜が頭を使っているその時、また、女の悲鳴が聞こえた。

(まだ、城の中にいるのね、きつねのアヤカシ)

「呪いだ~」

 男が走って行く。だれもかれも怪しい。夏菜は一生懸命気を張った。

(私が負けちゃいられないわ)

 顔をパンッと叩いた。

 まず、さっき噂をしていた女官に声をかけることにした。

「あの、夏菜ですけど」

「夏菜様ですか、何の用でしょうか?」

 城の中では、もう夏菜がアドルフと結婚の約束をしている事は、とっくに広まっているようで、夏菜は、持ち上げられているのだ。

「あなた達は、アドルフがきつねを引き入れたって、一体、誰に聞いたの? はっきり答えてちょうだい」

「あの、下女から聞きました。なんせ、あの子と達は、ウワサ好きでしょう」

 女官の女は、仕方ない事のようにそう言った。

「本当に、下女が言ったのね」

「はい、あの子達、すぐ、話を大きくするからね」

 下女の悪ふざけと知り、ちょっと拍子が抜けた。しかし、こういう時は、下女の悪ふざけでも、不安になる物である。

(少なくても、そう思っている人が何人もいると言う事だものね)

 夏菜は、アドルフが捕まってしまうのではないかと、心配していた。

 下女たちの口止めに向かう事にした。


 〇 ◎ 〇


 下女の所へ行くと。

「夏菜さ~ん、来てくれたのですね」

 下女たちは、一生懸命働いていた。その様子は、アドルフのうわさを流しそうには、とても見えなかった。

「あの、アドルフの事なんだけど」

「アドルフ様、忙しいのか来なくなりましたよね~」

 下女達は、顔を見合わせてそう言った。

「そうじゃなくて、アドルフのうわさを流していない?」

「うわさですか? 夏菜さんとの恋愛談の事ですか?」

「ち、違います。アドルフが、きつねを引き入れたと言う話です」

「そんなわけないじゃないですか、アドルフさんだよ、ありえない」

「えっ?」

 下女から、アドルフは、信頼されているようだ。

(あの女官、ウソをついたのね)

 下女を疑った事を反省して、少し仕事を手伝った。

「夏菜さん、明姫は、もういいんですか?」

「あっ、そう言えば、もう起きているかもしれないわね」

(明姫が、泣いていなければいいのだけど……)

 輝助の死は、明姫の心にとてつもない大きな穴をあけてしまっている様だった。

「一回、上がりますね」

「はーい」

 明姫の元へ向かうと、明姫はトロンとした目で空を見上げていた。

「大丈夫ですか」

「夏菜、大丈夫よ」

 明姫は、うっすらと笑っていた。その笑顔は、死を受け入れようとがんばっている様にも見えた。

「無理しないでくださいね」

「ええ」

 明姫は、トロンとした目で、返事する。明姫は、元から、少し弱々しい方だったので、こうなってしまう事は、夏菜には予想できた。

(明姫に何のためについて来たか初心を思い出してみよう)

 顔を叩いた。

(明姫は、旦那が戦で死んだら、心神喪失状態になるだろうとは、思っていたわ。でも、まさか、こんなに早くだなんて……)

 実は、夏菜も少し動揺していた。

 そこに、女官が入って来て、悲しそうに。

「アドルフ様が捕まりました」

「うそ!」

「罪は、兄殺しです」

「アドルフは、絶対にそんな事をしていないわ、なぜ、捕まえたのですか?」

 ふと、うわさをしている女官を思いだした。

(あの二人? いいえ、あの二人だけでは、城主を捕まえることは出来ない。もっと上の人物が利用したのね)

 夏菜は、こぶしをぎゅっと握って、気合を入れる。

「一体、誰の訴状で訴えられたの?」

三森みもりと言う方です」

「聞いたことの無い名前ね」

「輝助様の時、優秀な配下だったのだけど、アドルフ様にことあるごとに意地悪していた方ですから」

「アドルフが、城主になったら不利になる方ね」

「だから、訴状を出して、アドルフ様を降ろして、的確に三森の地位を上げてくれる人物を城主にするつもりよ」

「裁判官は、そのことをわかっているのですか?」

「わかっているから、すぐには、判決を出せないと伸ばしているのよ」

「裁判官は味方なのね」

「少なくとも敵ではないわ」

 夏菜は、少しほっとした。全員敵だったら、アドルフの命は、もうないだろうと思ってたからだ。

 後ろで明姫が心配そうな顔で聞いている。

「大丈夫ですから」

 一回アドルフに会いに行こうと思った。


   〇 ◎ 〇


 部屋から出て、アドルフのいる地下牢へ向かった。

「関係者以外出入り禁止だ」

「私は、アドルフの妻になる人よ、顔くらい見せてくれたっていいでしょう」

「……」

 門番が困っていると、人が出てきた。

「おお、夏菜さんではないですか、アドルフに会いに来たんですね。いいですよ、もしかして、死刑になるかもしれませんからね」

「あなた? 誰?」

「三森と申します」

 三森は、きつねのように目が鋭く、怪しい雰囲気を出していて、しゃべり方がねっとりしている。あまり好きに成れそうな人物ではなかった。

「あなたが、三森」

「はい」

 鋭い目で、こちらを見られた。頭はよさそうである。

「中に入ってよろしいの?」

「ええ、もちろんです」

 三森は去って行った。牢の中へ入ると、水の落ちるポタポタと言う音がしていて、真っ暗だ。ろうそくの明りで、何とか辺りを見て進んだ。

「ア、アドルフ」

「夏菜ちゃん」

 アドルフは、心底驚いた顔をした。

「アドルフ」

 檻にしがみついた。ろうそくの光だけが、二人を照らしている。

「夏菜ちゃん、来てくれてありがとう。夏菜ちゃんは、当然、俺が無実だと言う事は知っているよね?」

 夏菜は、首を縦に強く振った。

「それじゃあ、一つ頼みがあるんだ」

「何?」

「犯人を捕まえて欲しい」

「えっ?」

「裁判は、きつねをだれが引き入れたかが争点なんだ。だから、きつねを見つけて、誰に引き入れられたのか聞き出してくれ」

「つまり、私がきつねを見つけるの?」

「そう、その通りだよ」

 夏菜は、少しできるか考えてみたが、必ず出来ると言い切れるほど、自信があるわけではなかった。

「夏菜ちゃん、危険な賭けだってわかっている。でも、夏菜ちゃんしか、頼める人がいないんだ」

 夏菜は、ふと思った。この城で、アドルフの味方をしてくれる人は、何人いるか? 考えてみたが、多いとは、とても言えなかった。

「そうね、やってみるわ」

 夏菜は、決心したようにそう言った。

「きつねを探す道具は、俺の部屋にある、タンスの中に入っている。探してみてくれ」

「うん、わかったわ」

「使い方も紙に書いてある、気を付けて使ってくれ」

「うん」

 夏菜は、力強く頷いた。

 檻にかけていた手に、アドルフが上から、手を掛けて来た。

「夏菜ちゃんの手、小さくてかわいいね」

「アドルフ?」

「今は、夏菜ちゃんの顔が見られただけで幸せだ」

「アドルフ、まさか、あきらめてないでしょうね」

「うん、次は、夏菜ちゃんを抱きしめるから」

 アドルフの顔がきっとしまった。

「信じているよ、夏菜」

 それは、アドルフなりの決意の表れなのか、夏菜の名前を呼び捨てで呼んだ。

(夏菜……)

 夏菜の心臓はドキドキしていた。

(よし、がんばろう)

「そろそろ、面会は終わりだ」

 そう言って、夏菜は、牢番に連れて行かれた。

「アドルフ、また来るわ」

「夏菜ちゃん」

 手を振っていた。アドルフはいつも通りだ。


 〇 ◎ 〇


 夏菜は、言われた通り、アドルフの部屋にある、桐のタンスを開けた。右側から一つずつ開けて行った。

「あった」

 そこには、ろうそく、札、紐があった。

『ろうそく アヤカシを呼び寄せる』

『紐 アヤカシが握ると色が変わる』

 とりあえず、夏菜が握ってみるが、何も起こらない。

(アヤカシじゃなくちゃ意味ないか)

『札 払う』

(払う前に、引き入れた人を聞かなくちゃ)

 道具を持って部屋を出た。


 明姫の元へ向かうと、ぐっすり眠っていた。

「よかった。眠る余裕があるのね」

 夏菜も隣に布団を敷いて、眠ることにした。

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