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きつねのアヤカシを探す前に、輝太郎が帰ってきた。頭は、短髪で、元気がよさそうなおじさんであった。
「や、アドルフ」
元気よくそう言って、中に入って行く。
「さすがの放浪父さんね、息子が死んでも元気そうです」
「あれは、上辺だけだよ、陰でこっそり泣くんだ」
アドルフは、夏菜と内緒話をしていた。
「輝助―!」
さすがの放浪父さんも息子の遺体の前では、涙を流していた。
「ごめんな、何でも任せきりにしてしまって」
優しく、頭をなでる。しかし、輝助は動かない。輝太郎は、それを見て、わんわん泣いていた。
「さて、輝助のいない今、俺の跡取りは、アドルフだけだな」
「……そうですね」
「これからは、この城をアドルフが仕切れ」
「えっ!」
「できないのか? 俺の息子だろ」
「……」
アドルフは、混乱しているのか、黙っている。
夏菜は思った。城主になったら、誰も差別できない、輝助には悪いが、よかったのではないかと。
「でも、俺、金髪だし」
「おお、きれいでいいだろ」
「みんなに嫌われているし」
アドルフは、そう言って、口をつぐんだ。
「そんな事は無い、今まで、輝助がいたからだ。輝助がなくなった今は、アドルフ、お前しか頼れないだろう」
「父様は、軽く見過ぎている。俺が、この城で今まで、何をされていたのか、知っているんですか?」
「差別されたり、いじめられていたんだってな」
「知っていたんですか?」
「もちろん、だから余計にアドルフの城を見てみたいんだよ」
輝太郎は、悪びれずにそう言った。
「父様」
「期待しているぞ」
「はい」
その日のうちに、アドルフが、次期城主になる話は広まった。
「アドルフ様が、次の城主」
「私達、ひどい事言っちゃったし、首かもね」
「俺もだよ」
城のみんなは、アドルフに何かはしてきていたので、腹いせに、一斉に首にするのではないかと怯えていた。
「アドルフ、城の人達どうするの?」
「いますぐ、全員首と言いたい所だけど、そうは行かないだろ、兄さんの仕事を引き継ぐんだ。今まで、兄さんの手伝いをしていたやつを首にはできない」
「そうですよね、みなさん心配し過ぎなんですよね」
夏菜は、少し、プリプリ怒ってそう言った。
「なんで、夏菜ちゃんが怒っているのさ」
「だって、みんなアドルフの事、ちっともわかってないんですもの、今までだって、無能だから城主の座を狙わなかったのではなく、兄に譲っていただけですのに」
「ふふふ、夏菜ちゃん買いかぶり過ぎだよ」
「そんなことない」
アドルフは夏菜の様子を見て楽しんでいた。
「そういえば、明姫ってどうなるんですか?」
「一応喪に服してもらって、女官にでもなってもらって、働いてもらうかな」
「明姫が女官?」
夏菜には、実感がわかない答えだった。なぜなら、明姫は、夏菜の中では、絶対的な姫君だったからだ。
(明姫が下働きの手伝いなんて、想像できない)
しかし、神月国に帰ることも出来ないので、明姫が、生きる道は、女官しかないような気がした。
(かわいそうな明姫)
夏菜は、明姫に同情した。
〇 ◎ 〇
夏菜は、その足で明姫の元へ向かった。明姫は琴を弾いていた。
テンテンシャンテンテンシャンと鳴っている。
「上手ですね、明姫」
「夏菜、輝助様は? 今日は、会いに来てくれないのね」
「そうですね……」
夏菜は、少し悩んだ。輝助の事を言ってしまっていいのか? ダメなのか?
「ねえ、夏菜」
「あの、明姫、輝助様は、もうこの世にはいないのです」
「えっ?」
明姫は、きょとんとして、笑った。
「夏菜、きつい冗談ね」
「……」
夏菜は、明姫が受け入れたくないのだと思い、肩をつかんだ。
「明姫、私は、冗談で言っているのでは、ありません」
「本当?」
「ええ」
「輝助様が死んだ」
明姫は、悲鳴を上げた。すると、何人かの人が入って来て。
「大丈夫ですか?」
と手を差し出す。
「うそよ、うそよね、夏菜、冗談でしょう」
「冗談ではありません」
「私は、これからどうしたら良いの、輝助様がいないのでは、追い出されてしまうわ、国になんて帰れないのに……」
明姫が悲痛の叫びをあげる。
「大丈夫です。アドルフが、城においてくださるようですよ」
「そうなの?」
「はい」
明姫は、一回落ち着いた。
「大丈夫です。明姫、これからも、私が、何とかなりますから、命だけは絶たないでくださいね」
「……」
明姫は、黙ったままだ。
「夏菜、お願い、アドルフ様と結婚して、私を侍女に雇ってくれない?」
「そのつもりです」
明姫を女官にするのでも、いきなり下女とも行かない、しかし、姫もいない。それなら、アドルフと夏菜が、結婚して侍女を設ける。アドルフと話し合った結果そうなった。
「立場が逆転しちゃったわね」
「気にしないでください、形だけ、形式だけですから。私の憧れは、いつだって、明姫ですからね」
「夏菜」
明姫は、複雑そうな笑顔を浮べた。
(そうよね、急には、受け入れられないよね)
夏菜は、明姫をなだめて、眠りにつかせた。その日は、明姫が起きて叫んでも良いように隣に寝てあげた。




