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次の日は、朝から、雨が降っていた。雷光は、雨を知らせるための物だったのだろうと思い、背伸びして、明姫の元へ向かおうとしていた。ところが。
「大変だ。大変だ」
と騒ぐ人で、道が塞がれている。
(どうしたのかしら?)
「輝助様が殺された」
誰かがそう言った。
(うそ! 輝助様が?)
その時、どこかに雷が落ちる音が聞こえた。そして、女の笑い声が、城中に響き渡った。すると、全員の動きが止まる。
「呪いだー!」
「キャー」
大声を出して、みんなひどい顔をしている。
(それより、明姫よ)
夏菜は、明姫の元へ走った。明姫の部屋を開けると、明姫は、窓の外を見て座っていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、何か、今日、輝助様が殺される夢を見ましたの」
「夢――?」
明姫は、ショックのあまりに、夢と現実がわからなくなっている様だった。
「いやな夢ね」
明姫は優しく微笑んだ。
夢じゃないと言ってしまったら、目の前の明姫が崩れてしまうような、そんな気がして、言い出せなかった。
明姫は、窓の外の雲をひたすら目で追っている。
「何か見えるのですか?」
「輝助様が笑っているわ」
夏菜は、明姫がものすごく気の毒になっていた。
「そうですか、輝助様は、笑ってらっしゃいますか」
明姫を見ていると、桜の散り際の様に弱って見えた。
(輝助様、一体誰に殺されたの?)
〇 ◎ 〇
明姫に食事を持って行こうと、外に出ると、人が、また、道を塞いでいる。
「輝助様、どうやら、アヤカシにやられたらしいですよ」
「本当」
女中さんたちが、そう話している。
(アヤカシ?)
そう言われると、何回か見た雷光も女の笑い声も納得してしまう。
「でも、どうやって侵入したのかしら? この城でアヤカシなんて、出たことないわよね?」
「今まで、ちゃんと結界を張っていたのにね~」
(きっと、結界を破るようなアヤカシだったのね)
夏菜は恐々してその場を去った。
そして、明姫の元へ向かい、料理を一緒に食べた。
「夏菜と一緒にご飯を食べるのって、久しぶりね」
「今日は、特別ですよ」
夏菜は、笑顔を作った。明姫を少しでも元気にしてあげたかったから。
その後、アドルフを探した。彼なら、すべて知っているだろうし、話してくれるだろうと思ったからだ。
「アドルフ~」
探してみるが、見つからない。仕方がなく、輝助の階に行くと。
「兄さん、起きてよ」
アドルフの声がした。
「まるで、眠っているようですね。体に傷が一つもない様です。アヤカシが魂を抜いたのでしょうね」
医者らしき人がそう言っている。
「兄は、本当に死んでいるのですか?」
「君も心臓の音が止まっているのを聞いてみただろ、信じられないのは分かるが、死んでいるよ」
「……」
アドルフが黙る。
「もしかして、アヤカシ関係なら、陰陽師に頼るのもありだと思いますよ。わずかですが、助かる可能性もあるかもしれません」
「本当ですか?」
「私は、アヤカシに詳しくないので、何とも言えませんよ」
医者はそう言って、道具を片付けだした。
「陰陽師か、生き残りがいるのか?」
すぐに輝太郎に連絡を取るつもりなのか、早文を書きだした。
「父さまなら、いい陰陽師を知っているでしょうから」
アドルフが部屋から出て来た。
「夏菜ちゃん!」
「アドルフ、大丈夫、顔、真っ青です」
「当たり前だろ、輝助兄さんが死んだんだよ。この先、どうなってしまうのか、不安しかないよ」
「どうにかなるよ、大丈夫」
夏菜が気合を入れると。
「そうだね、もう成る様に成るしかないよね」
ぎゅっと夏菜の手を強く握った。
「君に誓うよ、何があっても、くじけないって」
「うん」
夏菜は手を握り返した。
〇 ◎ 〇
そうしているうちに、夕方になり、輝太郎が陰陽師を派遣してきた。烏帽子をかぶって、直衣と古風な感じの人だった。
「ご依頼の内容は?」
「兄さんの様子を見てください」
整った顔立ちの陰陽師さんは、階段を上り、輝助さんの所まで行った。
「アヤカシの気配はしないな」
一周見て回ってそう言った。
「この人物の魂は、もうこの世にない」
陰陽師がそう言って輝助の顔に触れる。
「何かのアヤカシが食べてしまったようだ。復活は、無いだろう」
アドルフの顔が曇った。
「人が招き入れない限り、この城の結界の中には入れまい、そして、出れもしないだろう。まだ、近くにアヤカシがいるだろうから、それを見つけて下さい」
「えっと、アヤカシは、探せないのですか?」
「ああ、たどれないほど、痕跡が消えている。輝世さんの死んでいた場所を教えてください」
「はい、庭です」
「では、見てまいりましょう」
陰陽師がそう言って、階段を降りていく、もちろんみんなついて行く。
「あれが、陰陽師か」
「すごい恰好、まだ、生き残っていたんだ」
陰陽師の直衣をみんな珍しがって、口々に何かを言っている。
(みんな、輝世様が死んだと言うのに、まるで、お祭りじゃないの)
夏菜は、心の中でそう思っていた。
〇 ◎ 〇
庭に着くと、陰陽師は。
「野次馬に引いてもらってください」
そう言って、関係者以外を持ち場に戻らせた。
「では、死体があった場所に立ってみましょう」
そう言って、何かを唱え出した。
(なんて言っているのかしら?)
夏菜は、疑問に思っていた。すると、辺りに光の点が現れた。
「この丸は、動物の足跡だ」
「じゃあ、動物に殺されたのですか?」
「いいや、違う、動物型のアヤカシなのだろう」
夏菜は、光っている足跡の形に見覚えがあった。
(どこで見たのかしら?)
記憶をたどって行くと、すごい昔の事だったのだが、三才の時、雪山で見た足跡に、似ていたのだ。
(あの時、お父様は、きつねの足跡だと言っていたわ)
「この足跡は、きつねの物ですよ」
「そうなのか、夏菜ちゃん」
「小さい頃に見たものにそっくりです」
「そうですか、きつねですか、それは、大変ですね。きつねはアヤカシの中でもたちの悪い事で有名ですからね」
陰陽師は嫌そうな顔をしてそう言った。
「頭が良くて、力も強く、きつねは厄介だ。探すのは、増々、君達に任せた方がよさそうだね。もし、きつねのアヤカシが出た時は、札を使いなさい」
陰陽師は、そう言って札を三十枚置いて。
「それで、ちゃんと除霊できますから、それと、おびき出すための、ろうそくも置いて行きましょう」
ろうそくまで、置いて言った。




