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プチプリンセスの恋  作者: 花見さくら
輝助の死
21/29

 次の日は、朝から、雨が降っていた。雷光は、雨を知らせるための物だったのだろうと思い、背伸びして、明姫の元へ向かおうとしていた。ところが。

「大変だ。大変だ」

 と騒ぐ人で、道が塞がれている。

(どうしたのかしら?)

輝助てるすけ様が殺された」

 誰かがそう言った。

(うそ! 輝助様が?)

 その時、どこかに雷が落ちる音が聞こえた。そして、女の笑い声が、城中に響き渡った。すると、全員の動きが止まる。

「呪いだー!」

「キャー」

 大声を出して、みんなひどい顔をしている。

(それより、明姫よ)

 夏菜は、明姫の元へ走った。明姫の部屋を開けると、明姫は、窓の外を見て座っていた。

「大丈夫ですか?」

「ええ、何か、今日、輝助様が殺される夢を見ましたの」

「夢――?」

 明姫は、ショックのあまりに、夢と現実がわからなくなっている様だった。

「いやな夢ね」

 明姫は優しく微笑んだ。

 夢じゃないと言ってしまったら、目の前の明姫が崩れてしまうような、そんな気がして、言い出せなかった。

 明姫は、窓の外の雲をひたすら目で追っている。

「何か見えるのですか?」

「輝助様が笑っているわ」

 夏菜は、明姫がものすごく気の毒になっていた。

「そうですか、輝助様は、笑ってらっしゃいますか」

 明姫を見ていると、桜の散り際の様に弱って見えた。

(輝助様、一体誰に殺されたの?)


 〇 ◎ 〇


 明姫に食事を持って行こうと、外に出ると、人が、また、道を塞いでいる。

「輝助様、どうやら、アヤカシにやられたらしいですよ」

「本当」

 女中さんたちが、そう話している。

(アヤカシ?)

 そう言われると、何回か見た雷光も女の笑い声も納得してしまう。

「でも、どうやって侵入したのかしら? この城でアヤカシなんて、出たことないわよね?」

「今まで、ちゃんと結界を張っていたのにね~」

(きっと、結界を破るようなアヤカシだったのね)

 夏菜は恐々してその場を去った。

 そして、明姫の元へ向かい、料理を一緒に食べた。

「夏菜と一緒にご飯を食べるのって、久しぶりね」

「今日は、特別ですよ」

 夏菜は、笑顔を作った。明姫を少しでも元気にしてあげたかったから。

 その後、アドルフを探した。彼なら、すべて知っているだろうし、話してくれるだろうと思ったからだ。

「アドルフ~」

 探してみるが、見つからない。仕方がなく、輝助の階に行くと。

「兄さん、起きてよ」

 アドルフの声がした。

「まるで、眠っているようですね。体に傷が一つもない様です。アヤカシが魂を抜いたのでしょうね」

 医者らしき人がそう言っている。

「兄は、本当に死んでいるのですか?」

「君も心臓の音が止まっているのを聞いてみただろ、信じられないのは分かるが、死んでいるよ」

「……」

 アドルフが黙る。

「もしかして、アヤカシ関係なら、陰陽師に頼るのもありだと思いますよ。わずかですが、助かる可能性もあるかもしれません」

「本当ですか?」

「私は、アヤカシに詳しくないので、何とも言えませんよ」

 医者はそう言って、道具を片付けだした。

「陰陽師か、生き残りがいるのか?」

 すぐに輝太郎に連絡を取るつもりなのか、早文を書きだした。

「父さまなら、いい陰陽師を知っているでしょうから」

 アドルフが部屋から出て来た。

「夏菜ちゃん!」

「アドルフ、大丈夫、顔、真っ青です」

「当たり前だろ、輝助兄さんが死んだんだよ。この先、どうなってしまうのか、不安しかないよ」

「どうにかなるよ、大丈夫」

 夏菜が気合を入れると。

「そうだね、もう成る様に成るしかないよね」

 ぎゅっと夏菜の手を強く握った。

「君に誓うよ、何があっても、くじけないって」

「うん」

 夏菜は手を握り返した。


 〇 ◎ 〇


 そうしているうちに、夕方になり、輝太郎が陰陽師を派遣してきた。烏帽子をかぶって、直衣と古風な感じの人だった。

「ご依頼の内容は?」

「兄さんの様子を見てください」

 整った顔立ちの陰陽師さんは、階段を上り、輝助さんの所まで行った。

「アヤカシの気配はしないな」

 一周見て回ってそう言った。

「この人物の魂は、もうこの世にない」

 陰陽師がそう言って輝助の顔に触れる。

「何かのアヤカシが食べてしまったようだ。復活は、無いだろう」

 アドルフの顔が曇った。

「人が招き入れない限り、この城の結界の中には入れまい、そして、出れもしないだろう。まだ、近くにアヤカシがいるだろうから、それを見つけて下さい」

「えっと、アヤカシは、探せないのですか?」

「ああ、たどれないほど、痕跡が消えている。輝世さんの死んでいた場所を教えてください」

「はい、庭です」

「では、見てまいりましょう」

 陰陽師がそう言って、階段を降りていく、もちろんみんなついて行く。

「あれが、陰陽師か」

「すごい恰好、まだ、生き残っていたんだ」

 陰陽師の直衣をみんな珍しがって、口々に何かを言っている。

(みんな、輝世様が死んだと言うのに、まるで、お祭りじゃないの)

 夏菜は、心の中でそう思っていた。


   〇 ◎ 〇


 庭に着くと、陰陽師は。

「野次馬に引いてもらってください」

 そう言って、関係者以外を持ち場に戻らせた。

「では、死体があった場所に立ってみましょう」

 そう言って、何かを唱え出した。

(なんて言っているのかしら?)

 夏菜は、疑問に思っていた。すると、辺りに光の点が現れた。

「この丸は、動物の足跡だ」

「じゃあ、動物に殺されたのですか?」

「いいや、違う、動物型のアヤカシなのだろう」

 夏菜は、光っている足跡の形に見覚えがあった。

(どこで見たのかしら?)

 記憶をたどって行くと、すごい昔の事だったのだが、三才の時、雪山で見た足跡に、似ていたのだ。

(あの時、お父様は、きつねの足跡だと言っていたわ)

「この足跡は、きつねの物ですよ」

「そうなのか、夏菜ちゃん」

「小さい頃に見たものにそっくりです」

「そうですか、きつねですか、それは、大変ですね。きつねはアヤカシの中でもたちの悪い事で有名ですからね」

 陰陽師は嫌そうな顔をしてそう言った。

「頭が良くて、力も強く、きつねは厄介だ。探すのは、増々、君達に任せた方がよさそうだね。もし、きつねのアヤカシが出た時は、札を使いなさい」

 陰陽師は、そう言って札を三十枚置いて。

「それで、ちゃんと除霊できますから、それと、おびき出すための、ろうそくも置いて行きましょう」

 ろうそくまで、置いて言った。

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